Tacoma #1 Fullbrightness

数あるWalking Simulatorの中でも、同じ開発元だけあってGone Homeに通ずるところは多い。大体はGone Homeで体験していることなので、新鮮味には欠く。
家に誰もいない秘密を探る代わりに無人になった宇宙ステーションの謎を探るというプロット。Gome Homeは別の人の青春を垣間見る青臭さのあるストーリーで人を選ぶ内容だったが、Tacomaでは割と万人向けになった印象を受ける。

最初のうちは、主人公が何をしているのかもよく分からず、ステーション内の状況もクルーが誰が誰なのかもよく分からないまま進めることになるので結構混乱したが、そのあたりが明らかになってきて把握できるようになってくると楽しい。
クルーの役割や性格が分かってくるとそれぞれの人物に感情移入でき、特に私の場合は、Sareh(発音でもサラと言っているのに、日本語訳では一貫してサリーになっているのはなぜ)は辛い決断を求められていることが多く、共感することが多かった。
最終的に全容が明らかになることでカタルシスもあり、同時にAIについて考えさせられる内容にもなっている。ただし、Tacomaに登場するAIは一般的なNPCに過ぎず、同年にリリースされたEvent[0]には残念ながら及ばないが…

Gone Homeからの新しい試みは、ARという体裁でアニメーション付きで過去の状況再現を見られることだろうか。
ARというのはなかなか良いアイデアだと思う。カットシーンとは異なり、一定の範囲をその場にいないかのように自由に歩き回って状況を知ることができるし、巻き戻しや早送り、一時停止もできるので、一方的に見せられるカットシーンよりも自ら探りたい時間と場所の情報を得られるので気が利いている。

Gone Homeをプレイした方は分かると思うが、オブジェクトに文字が書かれているときにそれを見やすくするためにオーバーレイでテキストが表示されているが、TacomaではそれもARが投影しているという設定になっているため、違和感が無い。現実世界でも実現されつつあるが、多言語にローカライズされたオーバーレイは近未来感がある。
文字を入力するときに手話のように手を動かすのも、近未来のキーボードレスな入力インターフェイスという感じで説得力がある。ここで安直に空中でキーボードをタイピングするような仕草を取られると興醒めしてしまうだろう。

一方で、ARとAIに強く依存しているためデジタルデータでの情報が多くなっているが、そのデジタルデータは大体破損していて全部読めない状態なのがストレスが溜まる。推測して欲しいのかもしれないが、推測しようがないわけの分からないローカライズ泣かせな文面も多い。状況がよくわかっていない序盤では猶更である。
逆に紙媒体ではそうした欠如が起こっていないというのは、このゲームで意図した皮肉だろうか。

The Red String Club #2 Androids Dream

やり直しの効かない前半の会話シーンとはうって変わり、後半のアドベンチャー?は総当たりでゲーム的な試行を何度も行う必要があり、現実的におかしいだろという光景になるのがもうちょっと頑張って欲しいところ。
会話シーンでは功を奏していた、何をどう選んでもそのままゲームが進行できてしまうこのゲームの特性が、仇になっているように見える。

とはいえ、ストーリーは面白かった。ボリューム的にも内容的にも、エピソード 1が終わったような印象なので、続きを期待をしてしまう。多分想定されていないだろうけれど。
ストーリーのテーマは共感と倫理にあたるだろうか。サイバーパンクのお決まりのようでもあるが、プレイヤーに解のない答えを問いかける選択も多い。

記録されていく数々の選択に関しては、明示的に影響しているような箇所は随所にみられたが、大局的には他のゲームと大差無く大きく逸れた結果にはならないように見える。赤い糸として選択を図示してくだけの価値はあったのかどうか不明である。

The Red String Club #1 Lightweight Bartender

サイバーパンクワールドでバーを営みつつ、それをバックボーンにして情報屋もしている主人公が、ディストピアな計画しているらしい企業の謎を追うという筋書きのアドベンチャー。
主人公は、相手の感情に共感するカクテルが作れるという凄腕バーテンダーで、それを使って情報を聞き出しているため情報屋としても超一流のようだ。ちょっと盛りすぎな気がある。

最初にカクテル作り始めたときに、痛々しいセリフを言いはじめていささかどうしたものか困った。しかし以降そんなことは無く、シリアスなストーリーと会話が面白い。大抵はごく普通のアドベンチャーのように選択肢を選ぶだけなのだが、会話を駆け引きしている片鱗が漂っている。これは、選択した結果がシステムとして明示的に記されていくのと、同じ選択は二度と出てくることなく、オートセーブで基本的にやり直しがきかないようになっているからだろうか。

選択して起こった直近の結果は、タイトル通り赤い糸として図示されていくが、それが後にどう影響していくのかはまだよく分からない。

カクテル作りはいくつかあるミニゲームの一つで、それらミニゲームにはあまり魅力や必要性を感じない。ゲームの進行を遮ってただ面倒なだけだが、相手の感情に対応したいくつかのカクテルは、選択から返答を引き出すためのキーとなるようだ。
だが、このカクテルの時にあの質問をすれば、喋ってくれるのかな…と考えてプレイするのは慣れていないと難しい。相手がカクテルを飲んだ時点で予想とは違った反応をしたら、それ以降の目論見は全て崩れるのである。

あと、私は下戸なので、名前が文字列として表示されない酒瓶を見て何の酒が入っているのかは全く分からないのが困っている。カクテル作りはそんなことを気にせずに適当に混ぜれば作れるのだが、会話の中で好みの酒がバーボンだとか言われても、どれだよとなってしまう。酒飲みなら常識的に分かるのだろうか?

STEINS;GATE #1 Technical Issues

昔Xbox 360のデモをやって、あまりの痛々しい台詞にやる気を失わされてしまって以来。
今やっても痛々しいが耐えられるのは、出てくるネタが時間の経過でより風化したことと、私自身が老いたことだろう。
登場人物が痛々しかったり基地外なのは、オオカミ少年的な効果を狙っているようにみえる。物語の都合にあわせて、真面目な話を受け入れなかったり、逆に突拍子もないことを言い出させても違和感が少なくなることを期待しているように感じる。言動が軽率すぎたり基本的にアホなのも、物語を転ばさせるための仕掛けに感じられた。

タイムトラベルを題材にしたアドベンチャーゲームやノベルゲームというと、私にとっては「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」で、どうしてもそれと比べてしまう。

YU-NOでは、タイムトラベルの理論については説明してくれるが、それを行う装置の原理についてはオーバーテクノロジーゆえ詳細に語られることは無かった。STEINS;GATEでは、装置の原理を技術的な部分にまで踏み込んで説明しようとしてくれるのは好感が持てるところである。よく考えると細かいところは解決していなかったりするが、それについてもある程度は作中でもそのように触れられる。

逆に、説明しすぎる弊害で、その手の分野に詳しい人ならあっさりと不可能だと分かる。ほどほどに現在のテクノロジーでは説明がつかないが何故か出来る、という濁した表現を混ぜた方がよかったのかなと思う。そうすると、それをよしとしない性格である助手の存在が厄介になってしまうが。

例えば、3TB超の情報を36バイトまで圧縮するということは、ブラックホールなら確かに出来る可能性はあるだろうけれど、それはコンピュータ上で行われるアルゴリズムによる符号化ではなく、単純に電気信号なんかを超圧縮したものになる。それは36バイト=288個のビットにデータを収めるのではなく、3TB=3,298,534,883,328バイト=26,388,279,066,624個のビットを288ビットと同じ大きさに潰すものである。数値化する場合、ビット未満の情報を扱える粒度、少なくとも10^-12ビット、仮に呼ぶならピコビットの単位系が必要になる。
ところで、現在のコンピュータおよび情報伝達手段はビットが扱える情報の最小単位である。ブラックホールで3TBの情報を36バイト未満に圧縮できたとしても、ビットまでしか扱えない通信回線やX68k、携帯電話などを経由すると、その情報はビットまで切り捨てられることになる。288個のビットに圧縮ではなく捨てられてしまうのである。JPEG画像のように非可逆で元に戻せない劣化した情報の出来上がりとなる。
タイムリープは成功しない。