Creature

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2010年11月27日 (土) 11:56時点におけるAndo64 (トーク)による版 (ボロを着た弓兵)

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テオドールF.マックスウェル卿の動物百科における序文

 大都市タラントで育った子供の例にもれず,私は,物心ついた頃からアルカナムに住まう恐るべきけだものたちの歌や物語に囲まれて育った.しばしば私は母とともに動物学協会にでかけたものだ.そこで魅惑的な標本を見たり,畏怖の念に打たれて巨大で黒ずんだベレログリムの頭蓋を前に立ちすくんだものだ.最大の呼び物は今日残る最後の大ドラゴンだった.私の父は時々休日に家族をカラドンの町に集めた.年一回のカラドンの動物園への訪問は旅行のハイライトだった.私はそこでその展示物や陳列物をつぶさに観察したものだ.その特別な思い出深い旅行で,私の心を捕らえた小さなヴェリス・ワイバーンのことを今でも思い出すことができる.少年時代に刷り込まれ精神と心に流れるようになった伝承を調べる楽しみは,大人になった今でも続いている.このような経験を持たないものがいるだろうか?子供の頃に見聞きした事柄は,閾域下にしつこく残存する.そして子供の頃,両親から聞いた物語や格言は,永遠に我々の夢の中にこだまするのだ.

 当然のなりゆきとして,この幼年期の体験は,私のタラント名誉大学における,動物学や伝統伝承研究に対する情熱の下地となった.タラントの堅固な城壁の外には,守られた内部とは全く違った世界がある.それが私の持論である.驚嘆させられる魔法,計り知れない美,危険,そしてしばしば死.大学での研究が進むにつれ,私は神話,寓話,伝説,歌謡,格言などの収集にとりかかった.数世紀に渡って私や何千もの子供たちを育んだ物語たちである.アルカナムに実存した異なる世紀の膨大な古文書類の編纂を行ったのだ.この準備期間が終わると,私は数名の献身的な仲間らとともにアルカナムの荒野へ探索の旅に出た.そこで本の中でしか知られていない物語の真偽が裏付けられるはずだった.そしてそこで見いだされる未だ知られていない生物たちの性質や特質を発見することを期した.それにより,アルカナムの大地に闊歩する獣たちの正しい姿を,人々に示すことができるにちがいない.

 本アンソロジー編纂の主たる目的は,アルカナムの素晴らしい生物たちの本当の姿を克明に描写することにあるが,タラントにおける幼年時代に私の心を捕らえた驚異と恐怖についての薄れゆく記憶を,再び捕まえたいという欲望に突き動かされたという面もある.われわれはアルカナムの獣たちの生態についての研究に膨大な時間を費やした.冒険的な学習から学び取ったこともある.後に続く頁はわれわれの仕事の集大成である.

 親愛なる読者よ,どうか安心してほしい.ここに記述された獣たちの描写は,実地研究から直接得られた知見ゆえに,正確かつ真実である.私や尊敬すべき仲間たちが12年におよぶ歳月の末に完成させたものなのだ.ごくまれなことだが,ある種の獣については,その詳細が膨大な文書や巻物に記されているにもかかわらず,ついに発見できなかったという,非常に残念なケースもある.このような場合,当該生物を記載から除外するようなことはせず,文献調査結果を総合的にまとめ,生態標本を用いた分析ができなかった旨を明記した.

 最後に私の個人的な手記を付け加えようと思う.この仕事に要した長きにわたる年月に対する労力は,読者らにアルカナムに住まう多くの獣について正確で詳細な情報が明らかにされ,その結果として,本書が読者らの国外への旅行の安全通行券となれば,十分に報われたことになる.この壮大な土地を闊歩する美,驚異,恐怖についてあなたが学び,そのとりことなってくれることが私の一番の望みである.

 我が恩師,レジナルドT.デニスンの慧眼に感謝いたします.あなたはこの著書に形を与えてくれました.そして,バイオレット・フライ女史.あなたは献身的かつ巧みに本書の技術的な問題に対処してくださいました.

 タラント私立図書館のフレデリック・バーソロメウ氏と助手のダニエル・コールウェイ氏,ヴェ’トゥラ氏にも感謝いたします.いつも幅広い知識を提供してくださいました.動物学協会のガートルード・ロスチャイルド女史とローガン・ダーンストップ氏,カラドン動物園のリ’カーン動物学教授,そしてエドワード・ウィロウスビイ氏,あなたの尽きることのない知識への渇望に対し感謝いたします.

テオドールF.マックスウェル三世


     

デミリッチ

 いつの時代にも,いかなる犠牲をもいとわず,永遠の命を探し求めようとする者たちがいる.たいがいの者はおとぎ話上の「生命の水」を空しく求めたり,神々の祝福を乞うたりするが,魔術を研究する者の中には,わずかではあるが別の方法を採用する者もいる.目的成就のために,より邪悪な手段を用いる輩だ.呪文の詠唱と並はずれた魔術的統制力を用い,自らをねじ曲げ,不死のリッチになろうというのである.成功する者はわずかだ.

 失敗する者ははるかに多く,彼らは惨めな存在,デミリッチとして存在し続ける運命にある.いくつかの呪文の言い間違い,不完全な儀式のジェスチャー,能力不足などが原因となり,名状しがたい怪物に退行させられてしまう.

 リッチとは異なり,新たに生まれ出たデミリッチはすぐさま崩壊を始める.それはみるも明らかで,かつて強力な魔術師だった存在のあらゆる構成組織が死臭を放ち始めるのだ.儀式を完遂するために身にまとった死に装束のぶざまなデミリッチは,それらを脱ぎ去ることもできず,汚らしい不浄な生き物として死衣のなかで朽ちていき,ゆっくりと塵へと帰っていく.

 変態初期には,デミリッチも人間らしい思考や動きをいくらか残しているように見える.しかし,不完全なメタモルフォシスが精神の一部に作用し,すぐにも話をすることができなくなる.それと同時に強力な魔法を行使する技も失われていく.ただ,わずかな記憶は残っているようで,恒常的な苦痛にさらされてるかのような行動を取るのが観察される.自らの崩壊に苦痛を感じているとの仮説もあるが,あるいは自らの失敗と力不足を悔いる苦い記憶を嘆いているためなのかもしれない.真実はわかりようがない.そして数年が経過すると,永遠の苦痛がデミリッチを狂気のかたまりに追いやってしまう.粗暴なけだものと化すのも時間の問題となる.

 デミリッチに強力な魔術師であったころの面影はないが,われわれが観察したところによると,変態の初期段階であれば,強力な魔力を行使することもあるようだ.よって注意を怠ってはならない.通常,新たに誕生したデミリッチは,中位の破壊呪文を唱えることができる.歳月と腐敗が精神を侵し始めると最終的にその力は失われる.  塵に帰る直前のデミリッチでも,相手を害しよう試みる.これは,われわれのフィールドワークによって明らかにされたことだ.怪物の力は損なわれているため,犠牲者が生き残るのは容易だろう.しかし,能力の大部分を保持した個体に遭遇した場合はどうするか.私のできる適切な助言としていえることは,可能な限り素早く魔法に対する防御策を講じること.そして一目散に逃げ去ることだ.  


サイレンスパイダー

 サイレンスパイダーは全アルカナムのなかでも致命的に危険な生物のひとつである.身長は7フィート近く,上半身は人間の女性だが八本の蜘蛛の足で歩行する恐ろしい姿を持っている.この怪物は荒涼たるヴェンディグロッスの荒地に住むことが知られ,これに怯えないのは最も勇敢な男たちだけだ.

 最近まで,この生き物は餌食とするものとして男性を好むと信じられていた.これまであたってきた文献によれば,女性であるサイレンスパイダーは,夜中に男をテントから呼びだし,さそうのだという.高潔なるグレゴール・シーナス・ダートン卿の言質によれば,「抗しがたい魅惑的な声色の,言葉にできない心地よさよ」となる.犠牲者が発見された場合,彼らは通常ひからびたトウモロコシの皮よりも小さくなっている.これまで正確に明らかにされていなかったのは,この恐ろしい生物がどうやって男をおびき寄せるのか,あるいはいかなる死が彼をみまうのか,ということだ.われわれの研究はそれを明らかにすることができた.

 男性のサイレンスパイダーを見た者がいないのは,一匹狼として過ごしているため,あるいは幼体の監督を行っているため,との仮説が一般的だった.われわれはこの説が事実と異なることを突き止めた.実際には男性種はどのような形態であれ存在しなかったのである.ではどのようなプロセスでサイレンスパイダーという種は存在しうるのであろうか.暗黒のねじくれた魔法の産物か.はたまた,怒れる神の呪いか.かの種には謎が多い.そして,男性種が存在しないかわりに,この生き物は巧妙にしてかつ恐るべき方法で種の保存を行っていたのである.

 女性種は交尾の準備ができると,人間男性の野営地を探す.夜が落ちると彼女は美しい人間女性に変化し,選んだ男性一人を誘い出す.この呼び声は魔法的なものであり,最強の力をもつ魔術師を除けばこれに抗することのできる者はいない.そのため,人間男性はたやすく仲間たちから引き離されてしまう.犠牲者が彼女の前にやってくると,彼女は犠牲者に体を投げ出し,男の欲情に火を着ける力を存分に行使できる喜びに歓喜する.男性は男性である以上,これが魔術的なものであろうとなかろうと,このような攻撃にはとりわけ弱い.結果は推して知るべしである.

 ひとたび犠牲者が男性としての役割を果たすと,サイレンスパイダーはその真の姿を現す.そして無防備な裸の男にのしかかり,すばやくその八本の類人猿めいた足で犠牲者を絡め取り,致命的な毒素を注入するのだ.男はすぐに動かなくなる.そうしておいて,この悪魔的な獣は,生命のない体の血を,からからになるまで存分に味わうのだ.

 サイレンスパイダーはこの仕事のあとも休むことはない.手ばやく適当な洞窟を探し,剛性のあるネバネバした糸で天井や壁を覆い始める.数日の内に,この殺人女はひとかたまりの卵たちを産む.卵の大きさは人の頭とおなじくらいで,糸で満たしたの巣の中に大切に置かれる.彼女は卵の前に立ちはだかり,数ヶ月間警戒を続ける.ヴェンディグロッスをうろつく多くの捕食者たちから卵を守るためである.やがて卵が孵ると彼女は自らの体を子供たちに捧げる.そして子供たちにむさぼり食われてしまうのだ.


ワーウルフ

 百科事典収載にあたって,仲間たちと私は,ワーウルフの研究に関して多くの議論を行った.つまり,獣人化現象(ライカンスロピイ)は生き物というよりは,疾病に分類されるほうが正しいのではないかということだ.そして調査の結果,以下の事項が適切であると信じるにいたった.

 すなわち獣人化現象は,人間を獣に退化させるという原因不明の珍しい病気であるということだ.男女を問わず,獣人化現象に罹患した人間は,通常その状況を把握しておらず,昼間はつましい社会の一員として暮らしている.しかし,ひとたび夜が落ちると,ワーウルフに変貌してしまうのだ.

 ワーウルフは巨体を持つ二足歩行の怪物である.頭の先からつまさきまで厚い毛皮に覆われており,恐るべきガロウルに似た特徴を持っている.腕力はオーガのそれに匹敵し,その鋭いかぎ爪と力強い顎は,犠牲者を効率的に解体することを可能にする.

 ひとたびワーウルフの形態をとると,彼らは,出会うものはなんであれ攻撃し,むさぼり喰らう感情を持たない殺し屋になる.そして,夜が明けると人間の姿を取り戻し意識も取り戻すが,夜の間に何が起こったのかはわかっていないのだ.しかし,返り血を浴びていたり,愛する者たちの残骸が周囲にちらばっているのに気づくことがしばしばある.

 故に,この病に冒された人間が長生きすることはまれである.多くの場合,彼らはいずれ発見され,滅ぼされてしまうか,ワーウルフの形態の時に殺されてしまう.ワーウルフは変身時に殺害されると,人間の姿に戻って,本来の正体を明らかにする.ごくまれなケースだが,獣人化現象を罹患したまま,長い期間発見されずに生き延びる個体もある.数年間病気が続くと,ワーウルフの形態が永続化し,もはや死をもってさえ人間の姿を取り戻すことはできない.

 この病気がどのようにして個体から個体へ伝染していくのかについては,これまで数多くの議論が行われてきた.ジプシーの呪いだと信じる者や,ワーウルフによる咬傷から感染するのだという者がいる.われわれの研究結果によれば,後者が真相である.

 われわれの研究や,アルカナムの過去の文献によっても,この病気の起源は明らかにされていない.古文書には辺境を放浪するワーウルフの群れの存在が記されており,太古の昔において獣人化現象は,現在よりも感染力が強かったと想像される.死以外の治療方法はないとされるが,ツーラの街に住む魔術の達人たちが治療方法を手に入れたという噂がここ最近になって広まっている.


 

リッチ

 リッチ.人々の心臓に恐怖を叩き込むこの自然に反する怪物は,かつては常命の者だったが,己を自らの手で生ける屍と化さしめた存在である.

 稀有な力を有する魔術師だけが,自らをリッチに転生させる能力を持つ.失敗はデミリッチとして永遠に存在し続けなくてはならないという恐るべき結果を招く.そのため,この秘儀は禁じられており,また試みようとする者たちの多くを思いとどまらせている.新たに転生したリッチは,常命であったころの知性や姿,知覚力を現す.しかし,観察者によって違いが見分けられるようになるのにさほど時間はかからない.この反自然の存在を生み出した禍々しい魔術は,徐々に本人を捻じ曲げていく.顔面は落ち窪んで骸骨めいていき,身体と精神は朽ちていく.数年が経過すると,リッチは完全に姿を変えてしまっており,もはや常命の者とは似ても似つかなくなっている.大きく落ち窪んだ眼窩,ひょろ長い四肢,そしてそれをつつむかつて皮膚だったしなびた腱は,まさに骸骨そのものの姿である.かつて自らを律していた強大な精神力は堕落していき,狂気を帯びてくるが,依然として強大な力は有しており,近づく不幸な者には誰にでも攻撃を仕掛けるけだものと化す.そして,その精神の不安定さにもかかわらず,リッチは全ての魔法呪文の知識を保持している.

 魔術師がかくのごとき怪物に自らを転生させることを選択する意思を持つこと自体が,この啓蒙の時代においては理解しがたい事である.私はこの件に関し,多くの調査を実施し,彼らがリッチへの転生を駆り立てられるのには特段な理由があることを明らかにした.最も大きな第一の理由は死に対する病的な恐怖である.彼らは死という無慈悲な手からすこしでも逃げのびようとするのだろう.リッチへの転生は,彼らが死に物狂いで捜し求めている不死性を与えてくれるのだ.この考えに基づいたリッチは死の運命からは逃れるものの,生者を脅かし破壊する存在となる.これはまさしく怪物としてはもっとも危険な形態であるといえる.

 一方で,歴史上においては,特別な聖宝を守護するためや,太古の死と呪いに冒された地区を封じるなどといった,より崇高な目的のために自らを転生させた人物もいる.使命を完遂するにはより強大な魔力が必要であり,それを手に入れるには一生の時間では足りないのである.このような来歴をもつリッチは恐れられているが,通常であれば,直接手を出さない限りは害となることはない.彼らは,はるか昔に忘れられた宝物を守護する古代の廃墟や秘密の洞窟において見出されることが多い.

 太古の魔法使い,ク’アン・タ’ウはまさしくそのようなリッチであると信じられている.伝説によれば,彼は,何世紀にも渡って,自らの居城ス’ネル・ン’ファに閉じこもり,自らリッチへの転生を試みたのだという.彼が所有すると伝えられる「エルフの力の杖」を永劫にわたって守護せんがためである.ク’アン・タ’ウは強大な魔法使いであり,多くの魔術学院に在籍し高度な研究を行ったが,もっとも特筆すべきは死霊術と召喚術を極めた事である.ク’アン・タ’ウの杖を捜し求め,消息を絶った冒険者は数多い.ク’アン・タ’ウがその暗黒の仕事を成し遂げた可能性は高く,今も彼が最も珍重する秘宝を守護しているのだろう.次にかの領域を侵そうとする無謀な盗賊には,不気味で悪夢のような怪物が待ち構えているのだ.


 

カイト

 この小さな二足歩行の生き物は,かみそりのように鋭い牙でいっぱいのぱっくり裂けた口を備えた不釣合いに大きな頭を有している.四肢はほっそりしており,敏捷で,必要に迫られれば厚いクッションのような足で相手に気取られずに歩行する事が出来る.夜行習性に有利になる大きな目も注目すべき点である.カイトは夜間での狩猟や移動を好むのだ.この忌むべき小さな怪物は,習慣的にわずかな衣類しか着用しない.彼らの皮膚は厚く丈夫で,野外での生活によく適している.

 カイトは2~7家族程度の小さな共同体を形成し,森林地帯に居住する.木々のほらや低湿地の陰が,彼らがすみかとして好んで選ぶ場所であるが,小さな隠れた洞窟に住んでいることもある.めったにすみかからでて来る事がないメスや子供を保護するために,隠れ住むことに秀でているのである.

 われわれは観察を通じ,オスのカイトは狩猟に多くの時間を費やしていることを探り当てた.カイトはほかの何よりも暖かい血と肉を好むのである.彼らが食料とするのは野うさぎ,イノシシそしてまれに熊などであるが,われわれの悲惨な仕事から明らかになったことは,カイトがもっとも好むのはエルフの肉であるようだということだ.狩猟の様子を目近で観察する事によって,カイトは獲物をなぶり殺しにするのを娯楽として楽しむという悪魔的な性質を持っていることも明らかとなっている.

 カイトの狩猟部隊に発見された無用心な旅行者の一団には大きな災いがふりかかる.彼らはすぐにもこのコソコソしたけだものたちに取り囲まれてしまうだろう.宵の影が色濃くなってくると,カイトはこの世ならぬ金切り声やほえ声などで騒ぎ立て始める.このわめき声はある方向から聞こえてきたと思えば,また別の方向からといった具合で,標的にされた犠牲者を恐れさせ混乱させようと努めるのだ.邪悪な心に駆り立てられたカイトは旅行者の一団に小さな矢の集中砲火を始める.一団のメンバーを負傷させ混乱状態を生じさせようとするのである.これが成功した場合,判断力を欠いた旅行者らはパニックとなり,盲目的にバラバラになってしまう.カイトとしては各個攻撃でやすやすと殺す事ができるのである.

 一対一で相対した場合であれば,カイトを圧倒することは可能である.カイトの狩猟部隊に対しては恒常的な警戒を怠ってはならない.小さな剣と弓で武装したカイトの一団は敏捷でたちが悪い.無慈悲な攻撃を受けることになるだろう.

 われわれは本論文を同僚であるタ’ナ・ローに捧げる.われわれが進んで受けた危険である.そして仮借ない知識の探求を行った真の科学者の究極的な犠牲として彼は生命を失ってしまった.この不幸な出来事は悲劇である.回避することが不可能なまでに包囲されてしまったのだ.


 

鉱石ゴーレム

 われわれは生命というものをどう定義するのだろう?ある者は知覚力や理性の状態に重きをおくし,生物学的あるいは化学的状態を重視する者もいる.そのほかの違うなにかで定義する者もいる.生命を持たないアンデッドのミイラの抜け殻を生命と分類しない者もいるが,では詩の朗読もするし婦女子をかどわかすなど,われわれの周囲に暗躍する伝説的で悪魔的な不死のバンパイアについても,同じように言えるだろうか.実体のある体は持たず,その声は吼えたける風のように恐ろしく,そして理解もできない言葉をまきちらす偉大なるグリマリングの幽鬼の内にはいかなる生命が燃えさかっているのだろう?

 その答えは,親愛なる友よ,生命は多くの奇妙ですばらしい,そしてときおり恐ろしい方法で定義されるのだ.そして,おそらく既知なる中でもっとも奇妙な生命体こそ鉱石ゴーレムであろう.

 鉱石ゴーレムはアルカナムのさまざまな場所に生息する事が知られているが,「灰色山脈」の最も深い洞穴や,ヴェンディグロッス荒野の吹きさらしの砂丘において認められることが最も多い.ドワーフの歴史の黎明期で語られるこの恐ろしくも心を持たない怪物との戦いにおいては,ニョルド・フリッグつまり「山の怒り」という名で呼ばれた.ドワーフたちはこれを恐れた.その容赦の無い攻撃をくい止める事ができないからだ.それらは石からできており,なおかつ生きていたのである.

 鉱石ゴーレムは強大な怪物である.18フィートを超える身長の標本が発見されている.外見はヒューマノイド型で二本の腕と二本の脚を持ち,その形のはっきりしない頭部は不規則でゆがんだ口で分割されている場合とされてない場合がある.人間のように二足歩行し,非常に好戦的で,自分を騒がすものに対してはそれが何者であれ,しばしば破壊的な行動を取る.採食はせず,交配したり子孫を妊娠したという記録も知られていない.話したり音を発することもないため,犠牲者に加えられる恐るべき巨大な石のこぶしの一撃を回避する助けにはならない.

 語られている話の多くは「石の精霊」とそれを召還し制御している魔術師の話である.混同してはいけない.そして,それよりも多く語られる話は,同様な魔法で鉱石ゴーレムを打ち負かそうとした無謀な魔術師の物語である.その者らの命はその先見の明のなさによって失われてしまったのである.われわれが推測できたところによれば,鉱石ゴーレムは魔法的な生き物ではない.とはいえ,その岩肌の五体には生命体であることを明確に示すであろういかなる血液も循環していない.どのようなしくみで動作しているのかということについては判断を保留するしかない.われわれの研究によれば,鉱石ゴーレムを打倒する唯一の方法は,文字通りそれをこなごなに砕いたり,内燃機関にでも使えそうなその四肢を切断する事である.鉱石ゴーレムとの遭遇が疑われる場合,冒険者がドワーフの工兵を雇う事は珍しい事ではない.

 鉱石ゴーレムに遭遇した遍歴の旅人に対する助言とは何か?逃げるのだ,友よ.単純明快だ.鉱石ゴーレムは無敵を誇るかにみえるが,全アルカナムでもっとも速く走る生き物ではない.その巨大な石の手の中で圧死するよりは臆病者の方法をとるほうがよいであろう.


レーテ・ワイバーン

この恐ろしい獣の話は注意して聞いてほしい.ある者たちはそれを実在する怪物だといい,ある者たちはそれは伝説に過ぎないという.今の時代,レーテ・ワイバーンに鉢合わせたものはいない.すくなくとも生き延びて報告することができたものがいないというべきか.

少しでも何かを見出せないかと,多くの古代の書籍や文書を詳細に調べたところによると,そこにはさまざまな意見が存在したが,その大部分が同意するところによれば,この恐るべき獣はずっしりした脚で二足歩行し,人間の約二倍の背丈を持ち,二倍の速さで移動するということだ.見た目は竜に似ており,しばしば,住んでいる地方の環境に適応した体色をしている.長く伸びた翼がその両肩を飾っているが,入手できた限りでは,ワイバーンが飛行能力を持つことを証明したり,それについて言及した調査報告は見当たらない.

小さな,毒蛇のような目が巨大な爬虫類顔の両側を飾っている.この生き物が周りを見渡すことができないという一般的見解に安心しないでほしい.文献調査によれば,レーテ・ワイバーンは非常に遠くまでを見渡すことができる.わずかな動きにもその伝説的な首を振り向け,対象をエサとする価値があるのか見定めるのだ.

レーテ・ワイバーンは,人でもけものでも肉ならばなんでも食べると記述されている.その巨大なかみそり状の歯列はあきらかにその目的にかなったものであるし,恐ろしく鋭いかぎつめを具えているとも信じられている.獲物をバラバラにするためにそれらを用いるだろうことは間違いない.

だがこの怪物の最も恐ろしい特徴はその牙に仕込まれた毒液である.私が聞くことのできた話によれば,この恐るべき毒液は肉体にではなく精神に作用するということで一致している.レーテ・ワイバーンは犠牲者に何度も毒を注入し,知性を退行させることで,犠牲者を精神の乏しい生き物に変えてしまう.犠牲者は逃亡という概念すら失い,レーテ・ワイバーンはその生き餌を娯楽として楽しむことができるというのだ.

かつて知性的な紳士であった生存者を偶然発見したことがあるが,かの者はおそろしいほど痴呆化しており,死ぬ日まで基本的な世話までが必要なほどであった.この致死的で退行性の毒に対する解毒法の有無は明らかにされていない.


 

クルジン

暴虐で邪悪,身のすくむような存在である.

暗闇は全方位から完全にわれわれを押し包み,恐怖と苦痛と死のビジョンを送りつける.血が凍り,毛が逆立ち,四肢の動きが緩慢になる.感覚に支障をきたし,不安が形成される.心臓の動悸は激しくなり,パニックが惹起される.恐怖の冷たいかぎつめが,犠牲者の精神をバラバラに引き裂いてしまう.暗闇はあいかわらず人類の最も恐れるもののひとつである.

この恐怖には根拠がないわけではない.この本能的な反応は正当な理由があってわれわれの種に形成されたものである.たとえば,この生来の性向を駆り立てる知恵はドワーフらによっても裏付けられているかもしれない.ドワーフ族は最も暗い洞穴の深奥において,恐るべきクルジンにもっとも遭遇している種族である.

クルジンは小さな形のはっきりしない生き物で,日の光をまったく見ることのない地中深くの暗いくぼ地を住処とする.地下における生活に適応するために,クルジンは暗闇と同じ黒色をしており,かみそりのようなかぎつめを具えている.小さな群れで移動し,どんな肉でも捕食する.クルジンは小さく鋭い歯列を持っていると推測され,犠牲者は驚くべき早さで食べつくされていく.われわれが突き止めたところによると,この生き物は小柄で二足で歩く猿に似た体型をしているようだが,この見解の正当性を満足させるほどくわしく標本が観察されたことはない.

クルジンは光が一切なくても完全に物をみることができる.このことは暗闇という環境において,彼らを優秀なハンターに仕立て上げている.われわれにとってありがたいことに,これは彼らのおおきな弱点でもある.光が彼らを盲目にするだけでなく,大きな苦痛をももたらすのだ.そのためクルジンは光源を恐れて逃げ出すことになる.しかし,クルジンに遭遇したときたいまつを切らしてしまった者は悲劇である.彼の命は失われたも同然といえよう.

暗く曲がりくねった洞窟の奥深くで,この悪意ある生き物の調査している間のことだった.荷役獣の一頭が足を滑らせ,脇にくくりつけてあったランタンを落としてしまったのである.その獣はチームの後尾にいた.荷役獣が暗闇に包み込まれてしまうとクルジンの群れが即座にそれに殺到してきた.恐怖と苦痛の叫びがわれわれの耳を打ち,洞穴内は大混乱に陥った.われわれが哀れな荷役獣を助けに駆け戻ったときはすでに時遅しであった.われわれがよろよろと後方に戻ると,クルジンはその光から後退し,そこでわれわれは数年後になっても夢に出てくるようなゾッとする光景を目にすることになった.

われわれの足もとに打ち捨てられていたのは,ところどころ食べられて,かろうじて見分けがつく姿の荷役獣だった.なおも苦痛から痙攣しており,臀部,脚,頭,首などの肉は骨まで削ぎとられていた.一瞬の隙を突いたクルジンに貪り食われてしまったのである.この悲惨に終止符をうった私の背筋は凍りつき,心臓は恐怖につかまれ息ができなくなった.

われわれが暗闇をおそれる理由が今では骨身にしみている.


  

ホーリー・デファイラー

悪はさまざまな顔を持つ.悲しいことに,ときに悪は,善や正義の顔を纏うことでも知られている.あるいはもっと悲しむべきケースでは,悪は善のあるべき姿を捻じ曲げ,認知できないおぞましい何かに変えてしまう.善が元々の本性を失ってしまうのだ.

そのような運命に見舞われたものは,ホーリー・デファイラー(神聖の冒涜者)と呼ばれる存在になる.そのさいなまれし魂たちは,リッチと同じように,かつては強大な力を有する魔術師であった.そしてその霊的な同胞と同じく,彼らは最暗黒の魔法操作を通じて,邪悪な存在となったのである.ホーリー・デファイラーが他の同類と異なっている点は,その後ろ暗い転生によって失われるものに対して,乏しい認識しか持っていなかったという点である.

ホーリー・デファイラーがその名で呼ばれるのは,彼らがかつては聖者や白の招霊術師だったからである.彼らは慈悲深い魔術の研鑽を積み,体や精神を癒す呪文を専門としていた.すぐれた彼らではあったが,万物に共通するものとして暗黒面も持っていた.多方面から収集した書籍や文書の精査によって確信できたことは,ホーリー・デファイラーは白の招霊術における暗黒の反射を,あまりに近くで観察してしまったがために暗黒に魅入られてしまったのだということだ.「ソウル・ポイズン」「精霊召喚」などの呪文の際,深遠に邪悪をのぞき見たとき,最終的にそれに打ち負かされてしまったのである.やがて彼らは妄想に圧倒され,忌まわしい何かに変貌してしまう.ホーリー・デファイラーは,力で服従を強いられた,ありとあらゆる種類の救いようのない従者に囲まれている.そして従者らはあるじの満足感だけのために,全てを犠牲にして生きるのである.

探索の旅において,われわれは運よくバンゲリアンディープへの遠征をなんとか生き延びることができたが,そこでわれわれは今まで見たこともないほど奇妙な闘争にでくわした.よたよた歩くフェラロクが,奴隷化されたオークの手下どもといるホーリー・デファイラーの住処を見つけ出したのだが,われわれは恐怖の中で,たけり狂ったフェラロクが心を持たないオークの集団に突っ込んでいくのを見守った.巨大なかぎつめが一振りされると内臓やらが飛び散り,フェラロクは彼らの頭目をめざしてつき進んだ.しかし,オークどもは地に打ち伏せられるやいやな再び立ち上がって戦い始めたのである.闘争から少し離れたところに立ち,恐れなど微塵もみせず,微動だにしない彼らのねじくれた君主が,オークらの傷を癒したり,死から蘇らせたりしたのだ.やがてオークの人数がフェラロクを圧倒し始め,最終的にフェラロクは四肢をばらばらにされてしまった.われわれはフェラロクと同じ運命をたどらないためにもあたふたと立ち去ったのである.

かくのごとき闇に行き着く善の顔を用いる悪こそ純粋な悪である.そのようなものを決して見入ってしまってはならない.


 

ジル・ドロワー

ある悲劇などの結果,人生が悲嘆に満ちたものになることはよくある.そして,その苦しみを通じて,深い落胆,罪,荒廃,苦しみ,絶対的な絶望を味わう.そのことで感情が破壊されると,時間とともに,その男も女も自らの手で,自らを最底辺の存在にしていく.そのような人々は,堕落した存在,ジル・ドロワーの格好の標的となる.

矮小な爬虫類のような姿のジル・ドロワーは,人間のわずか四分の一の背丈しかない.彼らの体色は暗い色で,頭から尻尾の先まで,地味な茶色から黒色の,こまかくてなめらかな鱗におおわれている.過分な働きは期待できないように見える小さな二本の腕を持っており,また,後ろ足を使って二足歩行し,必要があればすばやく移動することができる.小さく暗い目が長い鼻の両側を飾っており,短くするどい歯は身を守る武器程度にしか使えないように見える.ジル・ドロワーは草食も肉食も行わないが,さまざまな存在から放射される,力強い負の感情を摂取する.

この生き物は獲物の情動状態をかなりの遠方から察知することができる.例えば妻子を失った者の大きな悲しみを感じ取ったジル・ドロワーが,町の周辺をうろうろしているところを目撃されることがある.悲しみにくれる獲物がひとりになる機会をうかがっているのである.そのときジル・ドロワーは食い物にありつくことができるのだ.

苛まれた魂は孤独を求める傾向があり,そのため,自らを邪悪なジル・ドロワーにささげることすら歓迎するのだろう.ジル・ドロワーの一群が,苛まれた魂の人物に遭遇すると,ジル・ドロワーたちは対象の人物にゆっくり近づき,奇妙な悲しみのある調子でクークーと鳴く.その鳴き声は対象の絶望に共鳴するのだと信じられている.そして対象が全ての希望をあきらめ,周囲の世界を忘却するようになるまで,暗い深みを見せ続ける.すると,対象は絶望の深みの中で全てを見失ってしまう.ジル・ドロワーが犠牲者の周囲にめぐらされている抵抗の波動パターンを取り除くことができ,むさぼることができるのはこの時である.犠牲者がこうむる被害はメンタルな能力である.ジル・ドロワーの必要に対し共振増幅された,暗い絶望の記憶を繰り返し繰り返し見せ付けられ,犠牲者の精神は衰弱し,ついには死んでしまう.

ひとたびジル・ドロワーが犠牲者をむさぼり始めたのを,途中で妨害することは非常に困難で,ときには致命的な仕事になる.彼らによる打撃は物理的には少しのダメージしか引き起こさないが,力を引き抜かれたように感じる.ジル・ドロワーたちは救助者が意識を失って地に伏すまでその攻撃を続ける.そうして全ての懸念を除いておいてから,再び餌食のほうに全ての意識を集中するのである.救助者のほうは無関心にも打ち捨てられるが,それを見越してジル・ドロワーの捕食部隊の周辺をうろついている小型ワイバーン,種々の死肉喰らいたち,ときには死のランタンたちがそれをきれいに処分してしまう.

ジル・ドロワーの捕食のプロセスに関して正確なことはよくわかっていない.唯一わかっていることは,犠牲者の悲しみや苦痛が大きければ大きいほど,ジル・ドロワーにとっては美味で栄養のある食餌になるということだけだ.数ヶ月に及ぶ調査によって得られた私の見解は,ジル・ドロワーは苛まれた精神における大きな精神イメージと精神力から滋養を取り出す,ある種の魔法的能力を持つのだということだ.ジル・ドロワーはアルカナムに住む生き物のなかでも最も下劣な生き物である.


 

シバービット

アルカナムには数種の異なった種類の狼が住んでいる.そのどれもが攻撃的であり,捕食性の動物であるが,恐るべきシバービットに比べれば,いずれもかすんでしまう.

この恐るべき狼は「ストーンウォール」や「灰色山脈」といった地域の,氷に覆われた山道や急なスロープなどにすみかを作る.現存する狼の中では最も大きな狼のひとつで,この屈強な動物は,この凍りついた地域の極寒の気候に対する十分な防護と卓越したカモフラージュを提供する,白から薄灰色をした自慢の厚い毛皮をまとっている.通常の狼よりも高い知性を持っており,ずるがしこく,敏捷で非常に危険である.

シバービットはほとんどの場合,一組のオスメスによって支配された,4頭から8頭の成獣を含む家族単位あるいは群れ単位で暮らしているが,ときおり一匹狼で見られる場合も確認されている.群れの中での支配的なつがいだけが子供を作り,平均して1年に一回,一度に4から6匹の子供を生む.われわれの見積もりによれば,成獣になれる子供はおよそ半分で,半分は彼らの住む過酷な風土の犠牲になってしまう.

たいがいの狼と同じように,シバービットは卓越した群れによる狩猟能力をもっており,ひそやかですばやい足運びをする.骨を小枝のように噛み砕く巨大なあごを具えており,非常に高いなわばり意識をもつ.シバービットを他の狼たちと分かつのは,シロクマやフリジドン,イエティなどの外敵から身を守るのに適した,並外れた防御メカニズムである.過酷な環境に適応するために,シバービットは敵を凍りつかせることで無害化させる能力を発達させた.

この獣を研究するわれわれを混乱させたのは,正確には,シバービットがどうやってそれを成し遂げているのかということである.数千年にわたって一般的に信じられてきたのは,シバービットが内在的な魔法的能力をもっており,それによって外敵を意志の力で凍りつかすことができるのだ,ということである.しかし,理論と科学という学問の出現により,その能力は全くもって魔法的なものではないのではないかという考えを持ち始めた者たちがいる.つまり,彼らは,それはシバービットが持っている毒素あるいは化学物質によるものではないかというのだ.

シバービットが犠牲者をその場に凍りつかせる前には,まず物理的に噛み付かなければならないという点に留意されたい.このことはシバービットの能力が,非魔法的なものであるという疑いを導かないだろうか.魔法とは意志の力であり,物理的な接触は必要ないということは,一般に知られているところだ.私がこのページを記している今このときにも,両者の意見は激しく議論されているが,どちらの学説も立証はされていない.研究のためにこの獣を生け捕りにすることのできた者はいまだかつていないのである.


  

シャドウクロウラー

やつらは純粋な恐怖をかきたてる存在である.あるいは単に不快なだけかもしれないが,やつらはわれわれの近くにいる.私のもっとも頑固な同僚は,いかなるときも,それは3フィート以内に潜んでいるが,目に触れることはほとんどないのだと固く信じている.やつらはわれわれから何かを求めようとしているのではない.人目につかない陰や割れ目になった場所にじっとしているだけだ.もし出くわしたとしても,おしなべて比較的無害であり,片づけてしまうのも簡単だ.しかし,それはクモ属全てに当てはまる法則ではない.この法則から大きく逸脱しているもの,それが恐るべきシャドウクロウラーである.

シャドウクロウラーは,外観も,影深い暗闇でも明るい日の光の中でもどちらでも好んで生息することも,およそいやらしい方法で捕食することも,通常のクモと変わらない.ただし,この特別なクモに遭遇した者は,これは普通のクモと全く違うものだということがすぐわかる.このクモ形類動物の化け物は,大人のハーフリングと同じだけの背丈があり,八本の密集した節のある足が威圧するように広がっている.体色は黒だが,かといって実在感がなく,むしろある部分についてはエーテル質な幽霊のように透き通っている.これはシャドウクロウラーが身を隠す場合の大きな強みとなっている.シャドウクロウラーは洞窟や深いクレバスに住むのを好むが,古代の地下納骨堂や埋葬墓所で見られることもある.

狩猟の習性についても,通常のクモとは異なっている.繊細に紡いだ網に獲物がかかるのを待つ同胞と違い,シャドウクロウラーは獲物を狩りに行かなければならない.網を紡ぐ糸を生成できないからである.すみかから獲物がたくさんいそうな場所にさまよい出てくるが,その姿はふつうは深い陰のなかに隠されている.この怪物は辛抱強いハンターである.われわれの目撃例によると,そいつは捕食可能なエサ,この場合は若い森猿だったが,それが来るまで10時間近くを全く動かずに待ち伏せていたのである.

遭遇は一瞬で残忍なものだった.猿が通りすぎようとすると,クモは前方に飛び出し,力強い前肢で猿を地面に打ち倒した.猿には立ち直る機会は与えられず,シャドウクロウラーは全身で不運な生き物にとりつき,猿にくりかえしかみそりのように鋭い下あごをうずめた.麻痺性の毒を注入しているのは間違いない.森猿はすぐにもがくのを止める.そしてシャドウクロウラーは,食餌から全ての滋養成分を吸い取り,あとに残るのは干からびた皮だけということになる.そしてさらに衝撃的で度肝を抜かれる出来事が,この後に起こったのである.

突然,大きな何かが砕けるような音が小道の向こうから聞こえてきた.おりしも食事を終えたクモは振り返り,大きなオス猿に率いられた大きな猿のグループとちょうど向き合うことになった.猿の一行は死骸の前に立ち止まり,明らかに状況を見積もっているような感じだった.ボス猿は地面に転がった干からびた死骸を指さすと,自分の胸を叩き,背筋がゾクゾクするような恐ろしい声で吠え始めた.ボス猿はすばやく他のグループメンバーに加わるとクモめがけて前進し始めた.

われわれの予想に反し,明らかに不利なようにみえたクモは逃げ出さなかったが,その代わり,死骸からゆっくりと後ろに下がった.突然,まだ新しいその死骸は痙攣し震えだした.数瞬後,それは立ち上がったが,その姿はなんとも気味の悪いものであった.そして,2つの敵対者の間に身を置き,なんと自分の生命を奪った怪物を守ろうとし始めたのだ!

これにさらに激怒したように見えた猿たちは,クモめがけて殺到したが,結局,猿ゾンビーの攻撃を受け,恐怖で飛び退く羽目になった.一匹のオスが,その蘇った悪夢のわきを通り抜けようとしたが,クモはそれを即座に迎撃し,最初の猿と同じ運命を与えた.第二の猿は打ち負かされるやいなやアンデッドとして戦列に加わった.これで猿たちには充分だった.猿たちはすばやく身を翻すと来た道を勢いよく逃げていった.すると死骸たちは崩れ落ち,シャドウクロウラーは新たな犠牲者を悠々とむさぼり始めたのである.

言うまでもないが,シャドウクロウラーはアルカナムの住人にとって,どんな犠牲を払ってでも避けるべき,とてもユニークなクモ形類動物である.


 

エンシェントベア

熊.アルカナムにはさまざまな大きさの熊がたくさんいる.彼らは攻撃的な獣であり,茶色,黒,金色,灰色などの熊が,文明化された町の間に横たわる広大な荒野をうろついている.その中に科学コミュニティの間でも,それが事実なのかフィクションなのかよくわからないままになっている種がある.それの存在に言及すること自体が激しい争論の的となっているのである.そう,私が言っているのはエンシェントベアのことだ.

われらが大いなるこの世界に育ってきた者であれば誰でも,エンシェントベアが幼少時代の昔からの物語や歌謡の中で描かれていたことに同意するだろう.ふつう,この大地を闊歩する偉大なる智恵の精霊として崇敬されており,賢者には助言を与え,愚者にはすみやかな死を与えるとされる.これについて言及している物語は膨大だが,かの慈悲深い精霊は孤独を求め,文明社会からは距離を置いている.彼らは容易に怒ることはないが,強大な魔力を持っていると言われる.私の知っているエンシェントベアの物語には,彼らは死から全く完全な状態で復活できる,とか,敵の襲撃の際には森に住む全ての動物たちが救援に駆けつけるのだ,などと記されている.

文明の発達した今の時代において,われわれは,この獣の存在とその驚くべき能力について,科学的な証明をみつけなくてはならない.空想的イマジネーションとしての子供のおとぎ話の大部分を割り引く一方,そこに小さな真実がちりばめられているのではないかと感じられた.そして,その獣は単なる伝説上の存在なのではなく,過去数世紀にわたって何回か実際に目撃もされており,そのことが子供のおとぎ話の一部に信頼性を与えているのである.

タラント大学とタラントおよびカラドンにおける動物学協会からの潤沢な資金援助を受けて,われわれのエンシェントベアを追跡する遠征隊が出立した.これを率いたのは,ほかならぬ「追跡の達人にして射撃の名手」フランクリン・ペイン氏である.私はこの旅が成功裏の内に終わることを確信していた.

エンシェントベアを探す旅は長く骨の折れる旅だったがわれわれはついに1頭のエンシェントベアを発見した.その獣はわれわれが今まで遭遇してきたどの熊よりも明らかに大きく,ときおりモービハンに化石として出土する古代の洞窟グマと同じくらいの大きさと思われた.その体色は今まで見たこともないような色であった.奇妙な透明性があり,まるで揺らめく光を後ろから当てられたガラスコップに注いだ水のような黄金色とでもいおうか.我々は気づかれずに調査することはできなかったが,エンシェントベアはわれわれのほうに向かっておだやかにうなり,ゴロゴロ鳴いて警告する以上のことはしてこなかった.それは広範な地域を歩き回り,われわれはそれを追跡した.そしてその後,私は永遠に後悔することになるだろう愚行を犯してしまった.さらに詳細な調査をするために,この獣を生け捕りにしようと試みたのだ.

落とし穴と輪わなが仕掛けられ,3名以上が最も強力な催眠誘発ガスの封入されたバイアルをいつでも投げられるように用意した.この巨大なクマの動きを止めるためである.口ではこう言うが,それは単なるきちがい沙汰であった.子供向けのおとぎ話が恐ろしいほど真実であったということを発見したのは,この後のことである.

エンシェントベアが耳をつんざくような叫びをあげると,われわれは森に住む動物たちの攻撃を受けた.うさぎ,ねずみ,オオカミ,それに山ライオンまでもが,四方八方から襲いかかってきたのである.われわれのガイドの中のひとりが,強力な「自然魔法」を用いて動物たちを制御しようと試みた.しかし,その試みで彼は殺され,かの獣の巨大な腕のひとなぎは,われわれの生命を奪うのに十分であることを教えるはめになってしまったのである.恐怖で蜘蛛の子をちらすように逃げまどう遠征隊たちを見守っていると,つたや木の根,枝などがわれわれの逃亡を妨げようとするかのようにつかみかかってきたのに気づきゾッとした.まるでクマの危難に反応して,木々が生命を得たかのようであった.

この恐るべき猛撃に生き残った者らは,できるかぎりの秩序を保って撤退した.ペイン氏の卓越した射撃能力がなければ,われわれは全て殺されてしまっただろうと今でも信じている.武器の故障によってさらに2名のメンバーが殺されてしまったが,ペイン氏の不屈の闘志とライフル銃がわれわれを壊滅から救ってくれた.誤作動するライフルはペイン氏によって調整され,轟音とともに銃口から吐きだされた銃弾を受けた巨獣は,血だまりの中へと崩れ落ちたのであった.その瞬間,援軍の攻撃が止まった.森の動物たちは逃走し,植物と動物は全ていつもの状態にかえり,静寂が戻ったのである.

われわれは巨熊に近づき,もはやわれわれに害を与えることはないということを確認した.私はひどく震えていたが,死というものについて考え出す前に,残ったメンバーに,この獣について基本的観察をする私の補佐をするように指示することはできた.その大きさについてはすでに述べているが,とても大きく,その手は従者のグロッグの頭よりも大きかった.その体色は見事なもので,長く厚いシルクを思わせる毛皮は想像をはるかに超えるものだった.見事なするどい牙のあごを持ち,その目は夏空のように青かった.やがて夜が近づいたので,この獣の調査は翌朝に持ち越すことにして,われわれはキャンプの設営に取りかかった.

しかし,このあと冗談のようなことが起こった.翌朝起床すると,クマは消え失せており,数時間前に残された足跡は,森の中へと消えていたのである.

ボラード卿ハロルド


私は動物学権威タラント大学名誉総長ストラヴァイグ教授に,とぎれることのない感謝を捧げます.彼なしではこの遠征を実現することは不可能でした.


 

召喚された使い魔

魔術師の町として知られるツーラの門をくぐったとき,私は畏怖と崇敬が入り交じった気持ちだった.これほどまでに「むき出しの力」が周囲に感じられたことは今までになかった.ツーラにおいては全てが魔法なのである.私をツーラに連れてきてくれた知り合いの「火の精霊の司」ナフ’ザ師は,膨大な書庫に蓄えられた書物の知識を分け与えてくれた.彼女が私をこっそり書庫に入れてくれたことについては,返しようのない借りとなっている.それで私は値のつけようのないツーラの知識の集成にどっぷりと浸かり,多くのことを学ぶことができた.ツーラを訪れるものですらまれであるのに,私はさらにこのような機会にも恵まれたのであった.

とはいえ,この小論においては,アルカナムの生物に関しての執筆を続けようと思う.そこで,今回はあなたも今までに見たことがあるかもしれないが,力を持つ魔術師の肩にとまっているある生物について議論していくことにしたい.そう,ここで私が言っているのは召喚された使い魔のことである.

使い魔の外見は小さな竜のようで,その尻尾を主人の首にしっかりと巻き付けてその肩にとまっている.彼らのするどいかぎ爪は,肉に深刻な傷を残すため,その魔術師が「召喚術」に精通しているかどうかは,しばしば肩に重いパッドを入れたローブを着ているかどうかで見分けることができる場合がある.使い魔は肩にとまるとき羽をたたんで目を細めている.そのため使い魔はおとなしくしつけのよい種であるという誤った印象を与えやすいが,このことは事実とだいぶ異なっている.使い魔はつねに警戒心を解くことはなく,カミソリのようにするどいかぎ爪,ナイフのような牙,焼けつくような吐息でもって主人に対する忠誠心を発揮できる機会をうかがっているのである.高位の種族であれば敵に対し強力な魔法の呪文を浴びせることもできる.すばやく身軽で毒蛇のような動きをする強力な使い魔は,自分の10倍の大きさを持つ敵にも立ち向かうことができるのである.

ツーラに滞在中,私はこの生き物について多くを学ぶことができた.この生き物の動態について充分観察できたし,また,彼らの主人も自分の優れた能力について話をしたくてうずうずしていたことは幸運であったと言える.まず最初に,創造される全ての使い魔は同じであるという誤った認識を正すところから始めたいと思う.魔術師が使い魔を召喚しようとエネルギーを集中させるとき,その魔術師の力量によって,召喚される使い魔が弱い種族なのか強い種族なのかが決まるのだということらしい.種族には4種族がある.また,一度召喚された使い魔は死ぬまで主人と結びつけられるのだという.

ツーラにおける対話と旅の間の体験による観察から,しばしばモラルの実践に関して疑問の残る一部の魔術師たちを理解できるようになってきた.すなわち彼らは自らが召喚した使い魔やしもべらを生物としてではなく,単なる物としてみる傾向があるということである.その結果として,そういった考えをもつ魔術師らが,召喚した使い魔たちを危険な賭け事の戦いに投入することはべつに珍しいことではない.しばしば使い魔は,スポーツや利益の名の下に,他の使い魔や召喚された精霊,似たような動物などと戦わされる.私の目撃した戦いは息をのむような光景であった.それは残虐性と生の魔法に満ちていた.使い魔の発する断末魔は,聞いた者の背筋を凍らせるに違いない.そして,なぜ魔術師がそのような戯れや蛮行を行うのか疑問を抱くことだろう.

一方,ツーラに住む大部分の魔術師ら,とりわけスラッシャーやブラッドクロウを召喚する能力を持つほどの者らは,自分の使い魔に対し強い独占欲を持っている.しばしばペットとしての名前を与え,使い魔が快適に過ごせるよう手を尽くしている.それが血統種であろうとなかろうと賭け事の決闘に使い魔を参加させるような魔術師は,教育を受けたツーラ人の魔術師の中にはごくまれである.

召喚される前の使い魔がどこに存在しているのかということに関してはツーラでもおおいに議論されているところである.私が調べた限りにおいては正確な回答を推定することはできなかった.使い魔は魔術師のまさに霊的実体から生成するのだと信じる者もいれば,主人に呼び出されるまでは別の次元界に存在するのだとする者もいる.大図書館の古文書にあたったところ,使い魔に関する一節を見つけることができた.それによれば,使い魔は,天空神ハルショーンによって妥当と判断された者に下賜される大いなる贈り物なのだという.その由来がどこにあるにせよ,使い魔の召喚は魔法の中でももっともすばらしい仕事であり,使い魔はアルカナム世界の中でももっとも驚くべき生物のひとつであることは確かである.


 

ボロを着た弓兵

アルカナムの広大な大地には,多くの古代遺跡が点在している.昔の住居,孤絶した神殿,巨大な要塞などの名残が,下生えのなかに埋もれており,それらにわずかに残された秘密は静かに塵へと還りつつある.助言をするならば,通常このような場所は,きちんと武装でもしていない限り,避けるのが賢明というものだ.ちょっと覗いてみるというのもお勧めしない.私自身はどうしても必要にならない限り,このような場所を冒険しないだろう.このような場所を目的なしにさまよう者には,すみやかな破滅がおとずれるという事例はたくさんある.

崩れかけた廃墟の多くには,強力なアイテムや莫大な富といった古代の秘宝を蔵している場合もあるだろうが,そのような場合,それらを守る守護者が存在するのはほぼ確実であろう.守護者らはさまざまな形態をとって現れる.精巧なトラップ群や魔法的防御からはじまって,さまざまなデーモンたち,恐ろしげなアンデッドの群れなどである.これから述べるのはその後者についてである.

私はそのとき数名の同僚らと,捉えどころのない森猿についての空しい探索の途上にあった.仲間たちと私は,数名の戦士のような外見をしたアッシュブリー東部縦断には旅慣れた旅人たちと同道していた.大型グループでの移動がより賢明であろうとの判断からであった.われわれは快適な文明とは遠くかけ離れたところを旅するのである.

2週間ほどは何事もなく過ぎ去った.しかし平穏は小さな寺院であったと思われる廃墟の脇にさしかかるまでであった.このような場所は静かに素早く通り過ぎようと言っていたのだが,この日はそれを気にかけなかった.同行の旅人らが富と冒険を求めたのである.この廃墟にはその両者が期待できるに違いない.

遺跡に近づくと,近くの茂みからゴレイスの幼獣らの襲撃を受け,私のうなじの毛はおぞ気立った.この襲撃はわれわれに大きな恐怖を与えたが,簡単に撃退することができた.やつらは縄張り意識はもつものの比較的無力な怪物なのだった.

このあっけない勝利に気を大きくしたわれわれの同行者らは,廃墟内に向かって恐れることなく進入した.私と同僚らはしんがりにつき,気の進まぬまま後に続いた.玄関ホールを突破すると,周囲に暴力的な力が噴出してきた.がれきの下から死んで久しい遺骸が,朽ちゆく寺院を守護するために立ち上がってきたのである・

私は仲間に散開しろと叫び,周囲の森に逃げ込んで防御体制をとった.地中より現れたのは,簡単に片付けることのできる脆弱なゾンビーたちではなく,真に恐ろしい力を持つ者らだった.同道の戦士たちは,ガイコツ弓兵の小隊によって取り囲まれていたのである.ガイコツらはそれぞれが太古の朽ち果てた制服の残骸を身にまとい,武装の長弓で侵入者に対し矢の一斉射撃を加えた.その致命的な射速と正確性は私の意識ではとらえきれないほどのものであった.

われわれの同道者らはみるみる打ち倒されていった.2名が逃走できたが,その行動も二人を生き延びさせるには至らなかった.ボロを着た弓兵は驚くべきすばやさで彼らを追跡し,ためらうことなく猛撃し,あえて彼らの領域を侵したあげくに逃げ出した二名の生命の灯が消えるまでけっして攻撃をやめようとはしなかった.

われわれは木陰で震えながら息をこらしていた.少しでもうかつに動けば,かの動き回る恐怖がわれわれに降りかかってくるとわかっていたのである.ボロを着た弓兵らは周囲を探りまわっているようだった.そして,これ以上彼らを騒がすものが存在しないと納得すると,再び見張り位置に戻っていった.ゆっくりと地中に沈み込んでいき,ふたたび無害に見える瓦礫のひとやまに還っていったのである.

われわれの直接観察した恐るべき力を持つこれらのボロを着た弓兵らは,アルカナムの古代廃墟の秘密を守って待ち受ける恐怖の単なるひとつに過ぎない.親愛なる読者よ,この警告をよく聞いてほしい.このような場所には手を出してはならない.


 

クラーグ・バーサーカー

クラーグの身長はハーフリングよりも低く,華奢ではしこいその体は厚い皮革におおわれている.カイト族と遠縁であると考えられるが,クラーグは印象的な竜にも似た翼を持っている点が異なっている.この翼でクラーグは空中を素早く移動することができる.クラーグは主に肉食を好み,小鳥,野生の鶏,魚,ウサギ,そして時にはゴレイスの幼獣をその食料とする.野生の果物も好んで食べるが,果物類はクラーグの住む山岳地帯においてはめったに手に入らないごちそうである.

クラーグの幼体は山の頂の高いところにある巣の卵から産まれ,両親から短い期間世話される.ひなが飛ぶことができるようになると,母親と怠惰な父親はひなが成体になるまで育てる責任が生じる.この期間は約2年である.

クラーグは滞空していることを好み,ほとんど地表に降りてくることはない.降りてくるのは山中の洞窟や裂け目の奥深くで食事を摂るときと,高所にあるねぐらで休むときだけである.われわれの観察によると,クラーグは20から40の個体からなる階級組織を形成して生活していると思われる.個々のグループあるいは群れは3体以下のシャーマンによって率いられている.シャーマンは初歩的な魔法を行使することができ,危害を加えるものから群れを守っている.クラーグは比較的平和的な種族で,通常はむやみに攻撃的になることはないが,追い詰められれば凶暴にもなりうる.

その例外はクラーグ・バーサーカーである.若いオスはしばしばその常軌を逸した行動からバーサーカーと呼ばれる.それはとくに春の繁殖期において見られる.この時期,クラーグらはお互い同士やなわばりを侵してくる者に対し,めちゃくちゃな凶暴さで襲い掛かっていく.それはメスに自分の力を見せ付けるためである.クラーグはみずからのするどい爪に加え,長い四肢と器用な指先で,原始的な小弓やナイフといった道具を扱うことができる.これらによって加えられるいわれのない攻撃は,とても危険なものになりうる.

われわれの観察しようとした群れが繁殖期のさなかにあったことは不幸なことであった.大勢のバーサーカーがわれわれに襲いかかってきたのである.バーサーカーらはとても好戦的だったが,もともとクラーグはそれほど強力な存在ではない.クラーグらは,われわれの十分に武装したガイドらによって容易に打ち倒されてしまったのである.