The Tarantian

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2011年1月29日 (土) 11:47時点におけるAndo64 (トーク)による版 (投稿 半オークのやくざ)

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フランクリン・ペイン氏 表彰の栄誉!

3月25日日曜日の特別晩餐において,著名な探検家にして冒険家,ペイン氏が,タラント勲章を受賞した.翌月曜日のワックス社提供のテレグラフサイトで録音記録が入手可能である.

19日月曜日於タラント,本日,フランクリン・ペイン卿がタラント博物学協会より勲章を授与された.義務が呼ぶところの奉仕に加えて,卿による科学の領域における数々の奉仕が称えられたのである.

ペイン氏はこの受賞を独特な表現で受け止めた.「ハッ!オレみたいな野郎に敬意を表するってんなら,あいつらこの賞のせいでお高くとまったワイシャツをきらしてるに違いないぜ!ウーハ!全てはタダ飯のためなんだろ?」

祝宴は博物学協会本部で執り行われる.本記者は,ペイン氏が幻想的でスリルに満ちた彼の探検の中から,その冒険譚をひとつふたつ披露してくれるのではないかと期待している.


 

哲学論争

10月17日於タラント,多くのタラント人が周知であるように,わが市の哲学協会は最近,自然哲学およびその付随学に対して,比較の対象となる魔法科学のメリットと功績について「活発な討議」を行った. タラント科学アカデミーの科学学長テオドール・ファラデイ卿が自然哲学の横で演壇に立った.一方,魔法技術会はツーラの知識の殿堂からの博識者,権威尊師ウエストウインド氏の弁護を受けた.

なんということだ.今週はじめに行われた二人の博識の間で行われた議論は,全面的な混乱と中傷を呼び起こし,カルバート通りにある哲学協会の講義堂が燃える爆発事件が起こる事態となった.二名が二度目の剣戟を交えたのは密室会合においてである.

保安上の理由から,討論は一般公開されず,出席者は招待者のみに限られた.

読者諸賢よ.それでもなお,われわれはあなたのリングサイド席を剥奪すべきいかなる理由も見出せない.アルカナムイラストレイテッドタイムスはこの貴重で啓発的な議論に参加することを可能にした.われわれの現場レポーターは,読者の啓蒙と娯楽のため,そこで交わされた一言一句を記録したのである.

議事録はイントロから始まる.両陣営の論戦者らは自らの功績のリストを提示した.われらがファラデイ教授の功績についてはよく知られるところである.この紳士は電気学,化学,物理学の理解について多大なる貢献をしてきている.しかし,ウエストウインド師匠のリストもまた興味深いものであった.鋭敏な読者の中には,都市国家ツーラからの適切な大使館の設立における尽力者の中にその名があったことを覚えておられるかたもおられよう.なおツーラは魔術やそのほかの暗黒の技の実践者の故郷である.ウエストウインド師匠は近年,北方国家の歴訪を完遂し,スティルウォーター,クリアプール,その他の工業地域をたずねまわった.そして,革新主義者たちの投資著しい地域における河川の水質についての報告を上梓した.

社交辞令が終わると,すぐに本題に入った.ホスト市の市民として,ファラデイ教授は最初の発言が許された.


ファラデイ:この哲学協会のホールに偉大な好敵手をふたたびお招きできてよかった.この一週間の小休止が彼に大きな機知と呪文とを収集する機会を与えてくれたことを希望します.より彼らしくなれたわけですから.


ウエストウインド:機知については前回存分に行使できましたですとも.よき友よ.しかし呪文については,こういった場面での使用は控えておりますな.手も足も出ないタラント人と対面しての討議ゆえ.


ファラデイ:あなたがそのウエストコートのなかにピストルを潜ませているのは間違いないようですね!そんな準備は無用と保障しますぞ.暴力に訴えて魔法に対するテクノロジーの優越性を証明するつもりはありませんから.


ウエストウインド:火薬兵器をこれみよがしにみせつけながらでなければ,その仮定に同意する者がいるかどうかは疑わしいと衷心より申し上げますぞ!ともあれ,あなたが開始の言葉を述べられるよう,わたしは退室することにいたしましょう.


ファラデイ:おっしゃるとおりですな.よろしい.まず初めに申し上げておかねばならないのは,この討論は世間を非常に刺激するため,公共保安においては喫緊の懸念事項である旨にご留意いただきたい.魔法とテクノロジー,これらは相反するところから発展してきたものであって,お互いに相成れない作用原理を持ち,両者が近接している場合,他方の効果を妨げるものです.自然力であれ神秘力であれ,どんな力でもそれが突然相互矛盾すると,爆発や非常に危険な結果を招来する可能性があります.このことは故意にではありませんが過去に起こっておることです.私が小さな発電機械をある部屋に持ち込もうとしたときのことなのですが,そのときその部屋には,無分別にもそのタイミングで魔法を使おうとした我らが尊師がいらっしゃったという.


ウエストウインド:その件に関しては改めて謝罪申し上げますとも.眉毛はちゃんともとのように生えそろいましたかな?


ファラデイ:もちろんです.さて,続けさせていただきますと,この種の事故は非常に致命的なものになる可能性があります.ヴァーミリオン中央鉄道における最近の事件は,「魔法の技」の実践者はもっとも単純なルールですら守れない信頼できない輩であるということを示しました.このルールは一般社会を守るために制定されたものです.とどのつまり,本件はそこらにたむろしている魔法実践者の普遍的な無責任さを示すのであって,タラント議会としてはしかるべき処置をとるところであります.すなわち市街区全域における魔法を禁止するということです.


ウエストウインド:ばかな!あなたのいわれるいわゆる「ルール」など必要ないのではないか.この街は目新しいだけで危険で珍妙な機械でいっぱいなわけではありませんでしょう?あなたの鉄道駅の警告標識はほとんど意味不明であいまいなものばかりですぞ.あなたの提案する法律に関して言えば,これほど不公正かつ頑迷な立法など考えもつきませんな!尊敬するかたを否定するのは心苦しくはありますが,タラント市民はもっと賢明なるがゆえに,自分たちの行政区域に関しては魔術よりもむしろテクノロジーを禁止したく思っておることでしょう.


ファラデイ:非常識な発言ですな!魔法使いの口から発せられがちな,非論理的ナンセンスのたぐいといったほうが正確ですか.この街においてテクノロジーを禁止することなどおよそ不可能ですぞ!タラントは自然法則原理の理にそって建造されておりますし,さまざまな装置機械の使用に依存して発展を続けておるのです.


ウエストウインド:装置機械?そんなものは忌々しい破壊のエンジンとでも呼ぶべきものでしょう.


ファラデイ:われわれはまさに進歩を続けているのですよ.ウエストウインドさん.この討論を続ける前に,いくつかの一般用語の定義について同意しておくことが必要なようですね.


ウエストウインド:よろしいですとも.前回同意した事項についてすこし振り返っておくということですな?


ファラデイ:なんとでも.私は「テクノロジー」という用語について,ざっくりと一般的な定義を提案します.今回の討論のために,われわれは「テクノロジー」という用語を,化学を応用した結果による全ての有用な道具,技術,行為を指すものとします.


ウエストウインド:テクノロジーを「有用な」と呼ぶことに関しては意見の分かれるところですな!しかしそのように定義しましょう,教授.「魔術」に関する定義はまったく単純であることを覚えておられるでしょう.魔術の実践は技(アート)であり,科学ではないということです.科学と技の違いが魔法とテクノロジーの間における根本的な相違なのです.


ファラデイ:科学の原理を用いる者は,その環境いかんによらず,同じ技術や道具を使う場合,誰にとっても再現性のある結果が得られます.テクノロジーの追求において,われわれは多くの実験を行います.多くの実験の結果,それが正当であり再現性があると確信するのです.機械は合理と信頼性のある原理にもとづかなければなりません.さもなくば使い物になりません.


ウエストウインド:ほーお!使い物になる機械なんぞ存在するのですかな,プロフェッサー.では,あなたの教養ある同僚たちと比較してみましょう.魔術の技の実践とは一対多.他の誰にも得られない,あるいはそのときにしか得られない結果を獲得するのです.強力で複雑な魔法が行われます.それはユニークなもので,他の魔術師には模倣できそうもないものなのですぞ.


ファラデイ:街の通りを15分ほども歩いてごらんなさい.みすぼらしい魔法使いたちが同じようないかさまを行っているのを何人も見ることになる.


ウエストウインド:あなたがタラントで目にしている魔術の大半は真の魔術ではございませんぞ,プロフェッサー!けちな連中の単なる手品にすぎません.タラントで垣間みられる最高の魔術は,中空から花束を取り出したり,カードの印刷を換えてみたりするだけのものでしょう.そういったいかさま師など,真の魔術師の前では失禁するでしょうな.


ファラデイ:その真の魔術師とやらは,よく小さな発電機械と同じような存在だと言われますね,ウエストウインド師匠.


ウエストウインド:水差しの水をかけて差し上げますぞ,閣下.まあ,このことはあなたの髪の毛の残りを見て以来,つねづね思っていたことなのですがね!


ファラデイ:ウエストウインドさん!そのうさんくさい魔法の技とやらに対するあなたの熱弁に口をはさまさせるような真似はしないでください.われわれはしっかり拝聴しています.保証しますよ.


ウエストウインド:いいでしょう.結論といたしましてはですな.技における実験の結果は,完全に個人の才能と技量に依存するということです.科学ではないのです.魔法の技を用いて作られた道具や技術は,どんなものでも正確に模倣することはできません.なぜなら,魔術師の主要な道具,それは自らの意志力だからなのです.その意志力はわれわれの内なる存在に備わる機能です.そして老若男女すべての内なる存在はそれぞれに独特なものなのです.ゆえに呪文の結果を正確に予測することはできません.二人の魔術師が同じ呪文を唱えたり,同じ骨を投げたり,同じ香を焚くことはできます.しかしなおその結果は大きく異なるのです.


ファラデイ:それこそ問題ですな!魔法とはそれを実践する男女個人以上にまったく信頼性のないものというわけですか.その作用は未知の公式に従ってさまざまであると.そして,われわれはその効果を工学機械が誤作動することによって知るのですな.それ自体があまねく有害なものであることは別にしても.


ウエストウインド:イエス.ただそれにはもっともな理由があるのです.もう一度意志力のことにたちかえりますが,意志力は魔術師が最終的に獲得するものによる力だということです.魔術師たちが,そのてことして用いる意志力は,簡単に言えば,工学機械が依存している自然法則そのものなのです.


ファラデイ:そのような言い分は初耳ですな.しかし興味深いことです.その概念にはいくつかの長所があるかもしれませんね.たしかにこれまで聞いてきた一般的に観察される現象を説明するよい解釈になります.


ウエストウインド:魔術師の意志のパワーは,いわば効力の力場なるものを創り出します.その力場の放射圏内では,通常の自然法則原理は厳密に適用されることがありません.それらは魔術師に利する方向に改ざんされるのです.


ファラデイ:つまり,自然法則に依存する機械の混乱は,そういった働きによって引き起こされるというわけですな!ああ,そうかもしれません.もちろん魔法の係わるすべての理論と同じようにこれを証明するのは難しいことでしょうが.さて,一般的に,テクノロジーの産物は魔法の品よりも信頼性が高いということを,あなたもお認めにならねばなりません.とりわけ一般市民の繁栄を担保するという意味においては.


ウエストウインド:ファラデイ教授,テクノロジーはタラントにほんのわずかの繁栄しかもたらしませんでしたよ.いったいどれだけのコストがかかったのです?


ファラデイ:おっしゃる意味が理解できませんな,ウエストウインド師匠.


ウエストウインド:そんなことはないでしょう.それともテクノロジーが万民にもたらした利益についてお示しいただけるとでもいうのですかな?テクノロジーの利用によって繁栄を得たのは一部のものであって,例えばそれはあなた自身や「哲学協会」の会合に出席することでお茶を濁している上流社会の紳士たちだけなのではありませんか?その他の市民はテクノロジーによってひどい目をこうむっているのではないのですか?


ファラデイ:特におっしゃりたいことががおありでしたら,どうかわれわれを不安がらせないようお願いいたします,尊師.それを聞いて私は侮辱されているのではないかと大いに心配になりましたぞ.私のみならずわれらの尊敬すべきホストたちに対してまでも.


ウエストウインド:私は誰に対しても必要以上に侮辱することはありませんよ.私の言いたいことはこれだけです.すなわち,前回の会合の席上で,プロフェッサー,あなたの議論は皆に大いに感銘を与え,テクノロジーに対する賛同を得ることができた.しかし私は少々懐疑的なのです.あなたの描いたタラントに幸福をもたらす壮大な絵図について.産業と発展の輝きについて.前回の討論から一週間がたちました.わたしはその間,この街と周辺の郊外を見て回ったのですよ.


ファラデイ:そしてあなたは多くの驚異を目にされたことでしょうな.鉄道,製鉄や織物工場,あらゆる日用品を生産する工場群を!商店には,ありとあらゆるもので満ち溢れています.そしてそれらは事実上すべてが機械製なのです.大博物館の展示物もいくつかご覧になったかもしれませんな.それともケントの平原に展示してある傑物リレントール氏の空挺グライダーですか.


ウエストウインド:それらの驚異についてはすでに拝見させていただきました.そのほかの多くのものについても同様です.折に触れて,私はタラント人の発明の美と力にまったくもって圧倒されそうでした.街路や庭先を照らすガス灯には特に感銘を受けましたよ.しかし,そのガス灯も近づいてみればそれほど明るく輝いてはいなかったように見えました.


ファラデイ:あなたが見つけられたテクノロジーの瑕疵とはいったい何なのです?テクノロジーはそれほどまでに驚異的なものをもたらしましたのに.


ウエストウインド:ただこれだけです.すなわち,この街にもたらされたテクノロジーの豊潤な贈り物のすべては,それと同じ分だけ大切なものをも奪い去ってしまったように思えるのです.成功した1人の人間はすべて,100人の困窮者を生み出しています.ガス灯で照らされた快適な「クラブ」でのご馳走を楽しむ紳士ひとりに対し,1ダースもの子供たちが路上でパンの施しを請うことになるのです.


ファラデイ:たわごとです!テクノロジーは貧者にも恩恵を与えてますぞ.われわれの工場は何千人もの雇用を生み出している!


ウエストウインド:そうですね.あなたは何千人もの雇用を行っている.しかしその仕事とは何ですか?あなたはいままで自分の目でタラントの工員たちをご覧になったことがおありなのですか,教授?あなたはあなたのいう「雇用」で彼らをたたきのめしつつあるのですぞ.私はあなたの立派な紡織工場のひとつで仕事日の丸一日を過ごしてみたのです.これはよい啓蒙になりました.わたしはオーク族に対し大きな愛情をいだいているわけではありません.しかし,もっともオークを嫌う私のエルフの同僚ですら,彼らにあれほどの拷問を加えようとは思わないでしょうな.


ファラデイ:ああそうです.正当な報酬がもらえる拷問です!われわれは皆,オークや半オークがエルフ社会の中でどのように迎えられているかよく存じてます.どんなに過酷な仕事でも,排斥や死よりは望ましいのではありませんか?


ウエストウインド:そうですか?あなたの労働者が「正当な報酬」を求めるために耐え忍ばなければならないものを見た後では,問題が正しく把握されていないように感じましたが.


ファラデイ:ナンセンスな妄言です.彼らが工場で行うよう求められている仕事は,それでも軽いものですよ.


ウエストウインド:そうですね.おそらく軽いのでしょう.ただそれが3,4分間程度続ければよいというものであればです.しかし,労働者たちは立ったままで,それも紡織所の毒気にみちた空気の中で,13時間もそれを続けなければならないのですぞ!そんな中,監督官たちは15分以上の休息を与えようとはしない.この部屋にいるもっとも頑丈な者でも,これには耐えられないでしょう.たとえその間,自分の足で立って,針刺しに針を刺すという作業をしなくてもです.誰だって過労で倒れますな!それでもなお,あえてこの仕事を「軽い」とおっしゃるのですか.それが子供たち,それも年端もいかない子供たちに課せられているのだとしても?


ファラデイ:よそ者には過酷に見えるのかもしれませんがね,ウエストウインド師匠.しかしそれが世の常というものですよ.半オークには仕事の価値というものを教え込み,わるさをすることから遠ざけねばなりません.紡織所や各工場での仕事では,彼らに労働の意義というものを教えているのですよ.そしてその労苦の果てにある究極の成果とは何か?彼らはもはや問題を起こすことがありません.誠実な生活をおくることになるのです.まっとうな市民です.


ウエストウインド:違いますな閣下.「まっとうな」というのは違う.あなたのいう労働の重荷のもとでは,彼らは成長を阻害され,不具にされ,捻じ曲げられ,使い物にならなくなります.私は分かって発言している.私は見てきたことをはっきりと申し上げますぞ.


ファラデイ:私はオークの体型に関する専門家ではありません,ウエストウインド師匠!しかし彼らの体型があなたを不快にするというのであれば,むしろ,かの種族の醜くく野蛮な特徴は一般的に認められるところでもありますれば,それは命じられた仕事のせいとはいえないでしょう?いずれにしても,労働者たちへの扱いについては,ソーシャルエンジニアリングの問題であって,テクノロジーとは関連しないことをお認めいただきたい!ツーラ人の社会はテクノロジーを採用なさらない...しかし,不公正とは完全に無縁というわけではないようですね.


ウエストウインド:「ソーシャルエンジニアリング」とは聞きなれない用語です.タラントのかたは,日々の良心の欠如を表現することについて,なみなみならない才能を持ってますな!ツーラ人社会にはあなたの「エンジニアリング」はまったく必要ありません.わが国の市民はみな,自らの業績に基づいた地位を持っています.われわれの業績は持って生まれた能力の行使によるもので,公平に得られるものです.生まれつきの才能について,われわれはみな生まれたときから伸ばしていくことが奨励されるのです.


ファラデイ:そうはいいますがね.ならば,ツーラから夢破れてやってきた徒弟で構成される,われわれの学術振興会やタラント技術専門協会のランクが日々膨張していっているのはなぜでしょうな?


ウエストウインド:学習コースも完遂できない,強いキャラクターを明白に欠いている,無規律な個人らについてお答えすることはできません!


ファラデイ:われわれの新入生にキャラクターに欠ける者など,ひとりもおりませんぞ,ウエストウインド師匠.あなたのおっしゃらんとする意味はおそらくこうでしょう.つまり,彼らには忍耐が欠けている.あなたの言う学習コースを終えるのに必要とされる忍耐が.


ウエストウインド:徒弟が魔法使いのマスターになるのに必要な修養過程に,あなたのお好きなように呼び名をつけてもいいのですぞ.あの者らが欠いているもののことですが.


ファラデイ:よろしいですとも,ウエストウインド師匠.長期勤務という呼び名でどうです?われわれの生徒には「知識の殿堂」を見限った者がおります.ほんの10年程度のフラストレーションという理由から,われわれに加わったのですぞ.20年以上苦心してきた者もいますがね.私が繰り返し聞かされている不満とは,比較的短い人間の寿命というものを,ツーラ人の師匠らは一顧だにしないということです.師匠らはきまぐれな思いつきで彼らを何年も拘束することもしばしばなのです.


ウエストウインド:魔術の達人とはその個人の習熟度が全てです.忍耐とは魔術師が育みうる,もっとも偉大な徳なのですぞ!徒弟らがそれに欠いているとするならば,かれらの失敗は驚くに値しません.


ファラデイ:しかし私はその驚くべきものを見ましたぞ.われわれの教授たちに公正なチャンスを与えられた徒弟らは,すばらしい成果をあげていますからな.おそらくエルフにとってたかだか40年の研究はなきに等しいものなのでしょう.エルフは自分の技における刻苦勉励を卒業するのに少なくともあと160年は費やすのですからね.それでも神に召される前に卒業するのです.一方,人間にとって40年とは,一生の大部分ということなのですよ.もっとも長生きする者でも80年以上生きる者はまれなのですから.


ウエストウインド:あなたがたの種族的欠陥は,私が責を負うところでではございませんぞ!人間が「技」を習得することが困難であり,テクノロジーのほうを容易に使いこなせるという要素は,魔術が劣っているという論拠にはなりません.むしろ魔術の優越性を示しているのです!


ファラデイ:ツーラは自らの「優越性」を,しつこく声高に支持し続けていますな.いつもそうです.しかしその主張は,なかなか証明されることがない.


ウエストウインド:くだらん!証明ならいたるところにあります.あなたがたの市民の居住区の大半を占めるみすぼらしさを御覧なさい.あなたの偉大な機械とやらが不具にした人々のなんと多いことか.鉱山や工場から垂れ流された不浄な廃液で汚染されている.鉄道の事故でけが人が出る.事故は非難の対象となる魔術師がそばにいない場合でも,しばしば起こっているのですぞ.


ファラデイ:そのような事故はめったに起こりませんよ.それに,たいがいの場合,テクノロジーが大多数の者にもたらす大いなる恩恵に比べれば,ささいな事に過ぎません.


ウエストウインド:プロフェッサー,あなたはまだ私が満足できる,その大いなる恩恵なるものを提示しておりませんぞ.ともかく代価だけは恐ろしく高いものですな.すべての森林を伐採し,すべての山を荒らし,すべての河川を汚染殺菌し,大気の大半を煤煙と灰で呼吸に適さないものにしてしまって,未来の世代が感謝するとはとても思えないのですが?


ファラデイ:未来の世代では,われわれが進歩のために支払った代価のごく一部を垣間見るだけでしょう,ウエストウインド師匠.しかし,私は彼らの多くは,新生児死亡率を10人に1人まで低減させたわれわれに感謝することを確信しています.彼らはそれだけ十分に賢明でしょうから.公衆衛生と医薬品が飛躍的に進歩したこと.識字率が100倍になったこと.未来の世代では生活のための重労働が改善される希望がもてること,などについてもあらためて感謝されるかもしれませんね.


ウエストウインド:私の経験からしますと,タラント人の主張している「社会的流動性」とはまやかしに過ぎません.100年後,大半の人間は今よりもっと悲惨な境遇に陥っているでしょう.私はそれを知ることができる立場にいます.


ファラデイ:まやかしとおっしゃるのですか?私をごらんなさい.私はごくふつうの鍛冶屋の息子として生まれました.そして現在は自然哲学の名誉教授です.社会的流動性はまやかしではありません.ウエストウインド師匠.しかし,「魔術の時代」なるものは,まやかしを招来しうる要素を持ちますね.アルカナムで魔法が死に絶えた時,あなたが別の仕事を見つけられていることを祈ります.


ウエストウインド:もしそのような日がやってくるならばですぞ,プロフェッサー.あなたは私以上に悲しむことになるでしょうな.魔術なき世界などで生きる価値などないからです.タラントが自己過信と盲信で突き進んだ未来に生き延びることを,私もあなたも共に祈らなければなりませんな!


 

ヴァーミリオン駅での列車事故

木曜日の午後,タラントの街に近接するヴァーミリオン駅で発生した恐ろしい事故を報告せねばならないことは,心の痛む任務である.

タラントのセントラル駅まで乗客を運んでいたブラッケントン線の列車が,ブレーキメカニズムの動作を誤り,駅に到着する前に,脱線事故を起こしてしまったのだ.この事故によって,器物は損壊し,生命を失わなかった乗客たちについてもケガを負うなど大きな混乱が発生した.

この大災厄は街境の外縁部で起こった.恐ろしいのはこの事故が,200名近い目撃者の目の前,混雑したプラットフォームから10ペースも離れていない場所で起こったということである.駅職員,改札係,乗るつもりの乗客,そしてまさにその列車から降車してくる愛する人や知人を待っていた人たちは,制御を失って駅に突入してくる列車に対し,どうすることもできずに,愕然として見守っていた.

この列車が駅に突入する勢いを弱めたのは,プロビデンス事務所のすぐそばあたりであった.他の事故のように脱線した列車が横転することがなかったのである.ブレーキが故障したとき,列車がもう少しでも速度を出していたならば,タラント市の被害はさらに甚大になったであろうというためらいがちな憶測をする者もいる.

列車速度のごくわずかな違い,ブレーキが故障したタイミングの数秒の違い,これらによってさらなる災厄が生じえたかもしれないのである.

現状としては,衝突前に脱出することができたエンジニアらは切り傷や打撲ですんだが,勇敢なブレーキ係は腕を骨折する怪我を負った.タラント商工会議所のキャプテンであるタイラー氏は,すでにこの事故の調査を終え,結論を下したところであって,それに関する公式報告も公表されている.複数の目撃者が同意するところによれば,列車が最終進入を始める前,プラットフォームでは激しい言い争いが行われていたということで,おそらく魔術的な種類のなにがが行われたのはまずまちがいないのだという.

ブラッケントンの旅客列車のエンジン設計は,認可済みの近代構造と高出力を有している.そのため超自然力によるわずかな動揺にも感受性が高いのである.一般的にこういったもののそばで「神秘の技」を行使することは,かくのごとき事故を招来しないよう,明確に禁止されている.

しかるに,魔法的な過誤がこの事件では非難の対象なのである.調査官は,巨大なテクノロジーの塊に近接する駅のプラットフォームに,魔術師を入れることを許したシステムの弛緩を非難した.件の魔術師が違法な魔法を悪意を持って使用したのか,単なる無知であったのかはわからない.しかし,将来的にはこのような多くの死者をも出しかねない莫大な損失を防ぐ意味でなんらかの対策がとられる必要がある.

線路内に適用されるべき新たなシステムは,ヴァーミリオン事故が起こってから,ただちに検討が行われた.しかし,この事故に対する非難は,神秘の技の実践者が多くを負うべきものである.ほんの少しの魔法が鉄道オーナーを破滅させてしまうのである!ブラッケントン線やその他の鉄道線のオペレーターたちは,「たちの悪い魔術」から乗客を守ることのできる一般的な原理を開発しえていない.そしてこの事件は,怠慢によって生じうる結果についてを,明確に提示しているのである.


 

ケンジントン公園で不可解な失踪事件

先の日曜日,ケンジントン公園行政地区において発生した,御曹司ケンダル・ピアポント・ラッセルが失踪した事件について多くの陰鬱な憶測がささやかれている.法廷の紳士たちが調査を継続中ではあるが,農神祭の夜,タラント産業通商局の最高局長のひとり,M.P.リチャード・ミルハウス・ラッセルの4歳になる息子を誘拐した暴漢の探索以来,捜査は進展していない.

本件の捜査責任者である捜査官長ジェフリー・ベイツ氏によれば,心配している家族のもとに身代金の要求は今のところ届いていないのだという.火曜日になって彼の妻であるウィルヘルミナ・ラッセル女史の精神が限界に達したために,牧師先生は,何か進展があるまで,リッチモンドにある自分のすまいで彼女に待機するよう薦めた.ノームの息子を安全に取り戻した者には,たっぷりした懸賞金授与されるということなのだが,それだけではなく,純粋な心配心からも,その捜索範囲はすでにタラント全域におよぶものとなっている.この素晴らしい街の住人たちは,恐ろしい体験をするには,この子はまだ幼すぎると考えているのだ.ノーム族の子供,とくに幼児ともなれば,完全にひ弱で無防備である.大都市の深奥でひとりぼっち,ありふれたどぶねずみですら,彼に致命傷を与えかねないのである.ましてストリートを徘徊する人間やオークの屑どもの手にかかれば...?

そのような悲しい憶測はわきに置くとして,事の次第を繰り返しておくことはよいことかもしれない.日曜日の最後の夕方ごろのことである.デンジントン公園のありふれた浮浪者がラッセル少年の個人ガードマンである半オーガのグレンデルの遺体を発見した.この忠実な僕は,荒らされた木立の間の中央に死体となって倒れていたのである.この場所はかつては静かな所であったのだが,このように恐ろしい暴力の場所になってしまった.この草に覆われた小さな空き地は,ラッセル少年の週末の遊び場としていた場所なのであるが,ヘラクレスが暴れたかのような惨状となっていた.大量の血が芝や岩の上に飛び散っており,足元の芝はめくれ,掘り返された石がちらばるといった争いの跡で乱れていた.

その日の朝の家を出るときに被っていた水平帽のほかは,ラッセル少年の手がかりとなるものは一切見つからなかった.捜索グループはその日の夜から夜中中にわたって捜査を行い,さらには翌日までも続けたが,少年の痕跡はそれ以上見つからなかった.ゆいいつ捜索者らの手がかりとなりそうなものは,薄気味悪いものであった.すなわち,死んだオーガが握っていた人間のものと思われる一本の腕である.これは明らかにグレンデルが,愛する被保護者を取り返そうとしたとき,犯人からもぎ取ったものであろう.

襲撃者はどのようにして現場から逃走し得たのであろうか.恐ろしさに暴れる小さな子供を抱えながらということがなかったにしても,通常であれば致命傷に至る恐ろしい傷を負った後であるのに.これは大きなナゾである.残された腕についての法医学的な検査からは,新たな情報を得ることはできなかった.主任検査官フレデリック・アレンは,切断された腕の状態から有用な情報を探り出すことができなかった.この腕の所有者はおそらく人間であり,ほぼ確実に男性である.右腕部であり,よく鍛えられて力強い.エルフやオークの血が混ざっているのかどうかを確かめることは不可能であったが,前腕の体毛から黒髪を持つ者のものであることが示されており,皮膚の色は白である.

いくら現場が人通りの多い場所からいくぶん離れた場所にあるからといっても,片腕を付け根からもぎ取られた男が,日中のケンジントン公園行政地区から立ち去ることができるというのも妙な話である.そのような目立つ傷を目撃されることなしにとは!犯人の衣服が血液に覆われていたことはいうまでもないのである.有力な情報の所有者は,その旨を警察に申し出ることが求められている.犯人グループの逮捕に結びつく情報,あるいはラッセル少年を家族の下に無事に送り届けることができるようになる情報を提供した者には惜しみない褒賞が贈られるであろう.

全体としてみると,この事件はこの街-とりわけケンジントン公園行政地区-における警察力増強の必要性について喚起するものである.市民が自分の身すら守れないのであれば,どうして子供らの安全を確保することができようか?役人をさらに雇い,パトロールを強化することでこのひどい状況を常態に戻すことがどうしても必要なのである.


 

モービハンのエルフ族墳墓における興味深い発見

今年は考古学の歴史において,十年に一度の著しい進展がおこる,忘れられない年になりそうだ.エルフ族の遺骸が眠る場所,そこには,そのあるじがかつて尊敬された者であったかどうかにかかわらず,多くの骨董品の財宝も眠っており,われわれに古の人々の風俗,習慣,美術などへの想いをはせさせる,つよい吸引力を発生させるのである.とはいえ,ツーラやグリマリングの森といった地域において,エルフの家族墳墓を調査することは不可能である.それらの場所は,葬儀の哀悼者らによって,現在も使用されているからである.

タラントの古代美術博物館の館員,ウィリアム・G・ハリマン教授は,現在モービハン平原への遠征旅行に派遣されている.この地で,古代エルフの古墳群が,新しく発掘されているのである.この遠征は危険のない旅ではない.徒歩でモービハンに侵入することは,この地域の山賊たちの反発を受ける.今回の旅ではすでに3名が命を落としている.だがタラント当局は,それがそういった山賊たちの襲撃によるものであるなどとは信じていない.とはいうものの,モービハンで現在最も勢力を持つ襲撃者がどういった連中なのか,あるいは暗闇の中,強壮で経験を積んだ冒険家の首を背後から射抜く,短い黒い羽のついたエルフの矢はどのようにして放たれたのか,当局は,これらのことを公的に調査することを拒否している.

現在,現場にいるのは博識で知られるタラント・ポリテクニカル協会のR・I・ジェームズ教授である.化石はポリテクニカルの歴史自然講堂の訪問者をことのほか喜ばせる.彼はその化石をこの地域に探しにきていたおりにおいて,この古墳群を発見したのである.ジェームズとハリマンの協力体制いう前例のないこの状況は,おのおのが属する組織の歴史においても,たいへん珍しい出来事である.これは両協会の協力体制という新しい時代の先触れになるのかもしれない.いずれにしても,自らの発見が明らかになってから間髪をおかずに,ハリマンを呼び寄せたという,ジェームズ教授の思いやり,すぐれた判断力に,ハリマン館員は大いに感銘を受けた.

「ジェームズ教授に対する私の感謝は誇張ではありません」遠征に出立する朝,ハリマンは言った.「しかし,彼の専門を考えた場合,それほど驚くものではありません.あの紳士は古生物学者であって,考古学者ではないのですから.もちろん,両者の学問においては共通する部分も多いわけです.われわれは両者とも,アマチュアの遺跡荒らしがしばしばこういった場所を荒らしてしまうのに心を痛めています.彼らは乱暴な発掘により,一つのものを掘り出すのにその三倍もの破壊を行うのです.化石や古器は共に非常に繊細なものですからね!こういったものは,必要とされる配慮を所有する,訓練を積んだプロフェッショナルたちによって取り扱われるべきものなのです.」

今回において,発見が見込まれるものについてたずねたとき,この寡黙な博物館員の口は,よりなめらかになった.「ここで見いだされるものが,よいものなのか,悪いものなのか,なんとも言うことができません」彼は言った.「隊員メンバーは全て防弾チョッキを装着し,とりいそぎ入手できた限りの魔よけを持っています.ジェームズ教授と私はできるだけこの場所にとどまるつもりです.このような古代古墳であれば,現在ここの所有権を主張するエルフはもはやいないでしょう.ジェームズと彼の仲間たちがこれを発見するまで,このような埋葬塚が存在することすら,彼らは気づいていなかったのです.怯懦の心が,内部探索における最初の障害になると思います!」

この墳墓の探索において,どのようなことが明らかにされるのであろうか?「ジェームズ教授からの書簡によれば,非常に有望だとのことです」ハリマンは言う.「彼のチームはモービハン平原にある6つの丘陵のうち,ひとつを発掘したに過ぎませんが,そこでエルフ戦士の埋葬室を発見しています.そして,それがいつの時代のものなのか,はっきりさせることができないと言っているのです.このことだけでも専門家の興味をそそるではありませんか!なんだかんだいっても,あの教授にはわが博物館と長年にわたって懇意にさせていただいていたのです.つまり,われわれの展示物にはひじょうになじみが深いのですね.われわれは,これまで知られている全てのエルフの王朝時代様式の所蔵物を展示しています.ジェームズがエルフ戦士を装飾していた様式を見分けることができなかったということはです.この墳墓の住人は,もはや誰も覚えていないほどの大昔に埋葬されたのだということなのですよ.いずれにしても,われわれはぐずぐずしていられません!タラントの方々はわれわれの幸運を祈っていだたくようお願いいたしますよ.」


 

逃走中のワーウルフ

ブラックルートでのワーウルフ事件に関して新たな情報が入った.カンブリア国境に住む人々は,このところ,恐るべきけだものであるワーウルフに悩まされている.2日前の夜半のことだ.ブラックルートの知人の訪問から帰宅する途中のゲラルド・ラーテストン氏が,日没後,「北の道」の街道上にて襲撃を受け,あやうく殺害されかけたのである.彼の報告によれば,いななきさけぶ彼の馬にその怪物は躍りかかってきたのだという.怪物の肩の高さは,おとな2人分ほどもあり,するどい10本のかぎつめをそなえていた.ラーテストン氏が命を長らえることができたのも,ひとえに神の恩寵のたまものでしかない.そのけだものが,乗馬の臀部にとびかかってきて,馬を打ち倒してしまったとき,この若き半エルフの紳士も鞍から投げ出されてしまったのである.

「幸運以外の何ものでもありませんでした」ラーテストン氏は言う.「かわいそうなジャスパーが打ち倒されたとき,私自身は骨を折ってしまってもおかしくありませんでした.そうなれば,私もあの怪物に食べられてしまったにちがいありません.しかし私が振り落とされたところは柔らかい草地だったため,骨折だけは免れたのです.木に登ろうかとも思いました.奴はあまりに大きく重いので登ってこれない-しかし,あの悪魔が私の馬を食べるために動きを止めたのをみたとき,私はきびすを返して一目散にブラックルートに逃げ戻ったのです.あのように恐ろしいオオカミは今までみたことありませんよ.奴はジャスパーの首をつかんで,道の上をひきずっていってしまったのですから.」

このような話を信用するのは難しい.そこで翌朝ラーテストン氏は,充分安全を確保できる人数の地方当局者らとともに事件現場に戻ってみたのである.ラーテストン氏の愛馬ジャスパーの死骸は,街道から20フィートほども離れた小さな窪地で見つかった.明らかに件のワーウルフは,晩餐を他の旅行者に邪魔されないようするため,馬をそこまでひきずっていってたのである.ブラックウッド巡査は以下のように言っている.「馬の大部分は食い荒らされてしまっていました.大腿骨はかみ砕かれ,骨髄を吸われてました.パイ皿ほどの大きさの足跡が残されていましたよ.こいつは確実にワーウルフです.それも今まで聞いたことがある中で,いちばんでかいやつです.これほどの大きさのワーウルフに変化できる人間はいません.私はオーガとかトロールのような大きな種族がワーウルフ化したやつに違いないと考えています.」

前回のこのレポートは大きな反響を呼び起こし,このけだものを探し出し滅ぼそうと,2組のハンティングパーティが派遣されてきた.その1組は,ロジャー・ケイブンディッシュ卿に率いられたパーティである.12名のベテランガンマンを引き連れた卿は,ティファニー・シルバースミス社と契約を交わすことで,弾丸弾薬類を完全に銀製のもので統一した.もう一方のパーティは,かの有名なタイランディエル・スタークが取り仕切っている.彼は「神秘の技」に恐ろしいまでに通暁しているだけでなく,プリ’デシャの銀の剣をも携えている.この武器に始末されてきた,月の狂気に囚われた哀れな悪魔は一匹や二匹ではない.

するどい読者のなかにはすでに気づいているかたもおられるかもしれない.スターク氏はそのずっと昔,その左手の大部分をワーウルフの牙によって食いちぎられている.そのオオカミは恐ろしくおおきなやつであったと言われている.この偉大なハンターは噛まれた手の肘から下を自ら切断した.「呪い」が全身に回るのを防ぐためである.そしてこの悪魔的な存在は,彼の左手を奪っただけでなく,グリマリングの森にある彼の村において大量虐殺をもおこなっていた.ブラックルートのワーウルフが,氏の旧敵である可能性もあるのではないか?「私にはやつがそいつであることを望む理由がある.」今朝,タラントを発つ準備をしながら,スターク氏は顔をゆがめてそう言った.「いずれにしてもワーウルフだ.私は機会があればそいつらを殺すという誓いを立てている.」

スターク氏はロジャー卿に率いられるガンマンたちが成功する可能についてはどう考えているのだろうか?「成功を祈るさ」偉大なハンターは,彼の持ち味である辛辣さを込めて言った.「彼らが失敗するのを見るより,成功するのを見るほうがましだ」彼自身よりもロジャー卿の装備のほうが優位かどうかをたずねたとき,スターク氏は言葉少なにコメントした.「銃はエキスパートの手の中にあってこそ,グッドウエポンとなり得る.私は銃は使わない.使いこなすスキルを持たないからだ.そして騒音と悪臭は私の感覚を鈍らすだけだ.もう一方で信頼すべき感覚を.私には魔術が合っている」

一方,ロジャー卿はスターク氏の現場での幸運に,それほど楽天的ではなかった.「あの男に成功のみこみなどありませんな」昨日,タラントからの彼の先駆けが馬に搭乗しているとき,彼は快活にそう言った.「スタークのエルフ野郎がお経をモグモグし始める前に,あのワーウルフめの皮を暖炉の前の敷物にしてやりますよ」

スタークと彼のエルフ狩人のパーティは,ケイブンディッシュと彼のガンマンに対して丸1日の遅れをとっている.だがグリマリングの森の大ハンターに,焦りの色は見えない.どちらかといえば,彼の懸念は,ただケイブンディッシュと彼に率いられた12名のドワーフと人間たちの身の安全だけに向けられているようだ.「これが狐狩りのたぐいとは異なるものだと,彼らが認識していることを祈るほかあるまい」ロジャー卿のインタビューにおける卿の発言を繰り返したところ,スターク氏はそのように述べた.「これはゲームではない.ワーウルフは危険だ.そのわけは,私がよく知っていることだ」

いずれにしても,われわれは両パーティが大きな成功を収めてくれることを望んでいる.われわれの成功祈念への思いは皆が共有するものである.最終的に,ブラックルートのワーウルフを仕留めた男は,その男が用いたハンティングメソッドを際だたせることになるだろう.そして緊急事態において持ちうるべきが,魔術か,テクノロジーか.その採用を決める際に,多くの者を納得させることができるようになるのである.時が経てば,その答はおのずと出るはずだ.


 

カヴェンガーデン 力と技の競技大会

ボクシング界王者に君臨する豪腕半オーク,ブラントン・フィゲは,今夜,彼の保持する「ブリーボーイ」のタイトル防衛戦を戦う.対するは,N.D.ブライトン氏がスポンサーとなる半オーガのチャレンジャーである.ミスター・フィゲは地元タラントは白の寺院地区の生まれ,50戦以上の試合に勝利しており,あらゆる種族,あらゆる国々からの挑戦者に対し,少なくとも16回以上のタイトル防衛に成功している.一方,ブライトン氏の「ブリーボーイ」は今まで通常体格級の試合で,一度もマットに沈められたことがなく,リングにおいては20勝の戦績を収めている.全アルカナムヘビー級チャンピョンシップで,この両者が対峙することほど手に汗握る見世物はない!ミスターフィゲの勝利に対しては金貨100枚の賞金が提示されている.はたしてフィゲは,このタラント・プライズ・リング・ルールズにおいて,体重差が700ストーン近くもあるノーム紳士の個人的ボディーガード相手に勝利をつかむことができるのか?強心臓を持つ者だけが,今宵の結末を知ることができる!チケットオフィスはPM6:00開設,ショーの開始は8:00からだ.


 

投稿 タラントの未来幻視

拝啓

恐ろしい火事を見ました.都市の半分近くが焼け,郊外が広範囲にわたって破壊されました.略奪のために組織された外国人の群れを見ました.彼らは全ての区画で破壊活動を行うのです.150万もの人々が集まってきて,この混乱は世界史に残る一大博覧会になると思われました.しかしそれは「産業の博覧会」ではありません.われわれが見ることになるのは「破壊の博覧会」なのです!タラントは致命的となる敵を持っています.戦争で戦うことのできない敵です.しかしタラントは,重い災難を招くものに対し,自ら城門を開け放っています.この街はテクノロジーに囲まれています.この科学との間の悪魔のような契約が,われわれの破滅の根源となるのです!国王任命大臣に準備を進めるようお願いしましょう.この恐るべき陰謀が成立するのはもはや避けようがありません.ですが,あらかじめ警告を受ける者は,あらかじめ武装しているに等しいのです.

-とある村の予言者


 

投稿 半オークのやくざ

拝啓

半オークの路上労働者によって被害を受けた後,このごろ貴紙において他の方々もそのようなことを書かれておられるのを拝見し,私の場合のことも世に知らしめておくほうがよいと考えました.約3週間前のこと,我が家から歩いて2分と離れていないところにある,ポートマン広場を歩いていたときのことです.私はとつぜんその種のごろつきの一人に襟首をつかまれました.私が叫んだり抵抗することができる前に,別のごろつきから矢継ぎ早に顔面に3発くらいました.それで鼻にけがを負い,しばらく鼻血が止まりませんでした.のどをつよく締め付けられて苦しかった上,今日の暴力で顔にあざができました.

ざんねんながら,そのごろつきどもは私の金の時計と鎖を奪って逃走してしまいました.この出来事は,私にある「永遠のナゾ」を再び呼び起こさせました.つまり,なぜあのような屑どもの生存が許されているのだろうかということです.なぜあのような者らが,文明都市のストリートを闊歩することが許されているのでしょうか?オーク種族が飼いならされることがないというのは,何度も繰り返し証明されてきたことなのです.オークの子孫は高貴な種族と共存することはできないのだということも.当局がなすべきことをなすのはいつのことになるのでしょう?あの下劣で,不埒な混血のゴミどもの不浄な軍団が,私たちのストリートからきれいさっぱりいなくなるのはいつのことなのですか?タラントがやつらを永遠に排除するのはいつですか?

この手紙が掲載されれば,この強盗のやりくちの危険性について,警察当局の注意を引くことになると信じております.そして,ほかのきちんとした場所に住む善良な市民が,オークから身を守れるような警告にもなるでしょう.

つつしんでお願いいたします.

チャールズ・バレット 71,上バークレイ通り,ポートマン広場


 

投稿 タラントの宿屋

拝啓!

素晴らしい貴紙をわざわざ非難するのは心苦しいことではございます.ですが,これまで見たこともないほど不正確で中傷的な投書を見ることがなければ,こうして筆を取ることもなかったでしょう.その投書とはレアボーのデリー・ペッティボーン氏の悪意あるペンによって書かれたもので,3日前の月曜日に掲載されていたものです.あなたがペッティボーン氏が書いた内容について責任を負っていないことは理解しています.しかし,タイムスのレポーターとして彼を採用するのは賢明ではありません.彼の記事は最初から最後まで嘘しか書いてないのです.そしてその嘘は,主として,ヒアフォード通りに住む私自身とその一家にとって憂慮すべきものであり,反論しておかねばならないとの思いに駆り立てられたのでございます.

ペッティボーン氏は部屋を探しにヒアフォード通りにやってきたと主張しております.これについてはおおむね真実です.彼ははげしい雷雨のさなか,お茶の時間に我が家の玄関に現れ,私たちの食事を中断させました.彼は彼と彼の婦人の持つ「素朴なレアボー人の常識」でもって,道に迷って一時間近くもぬかるんだ通りを裸足でさまよっていたことについては,言及することを拒否しております.しかるに,彼らに靴を脱げとか,靴をきれいにしろとか,私が言うことはありえないことだったのです.家に来る以前に,彼らは靴を履いていなかったのですから.そして彼らはそのまれにみる大きな足で,そのへんを泥まみれの足跡だらけにしてしまいました!

ペッティボーン氏は私の「態度」を批判しています.しかし,その原因については述べていません.おそらく数え切れないバッグやスーツケースを彼の部屋に運び込んだり,かわいそうな未亡人の婦人を愛想よく階上に上げてあげるには,私があまりに「へとへとだった」ということなのでしょう.私が彼の借りた部屋に荷物を運びあげる作業に従事している間,ペッティボーン氏と婦人があまりにもくつろぎすぎていたことも,私が気を悪くした理由だろうとも言っています.応接室に戻った際,テーブルの上に泥だらけの毛むくじゃらの足が乗っており,レースカバーが台無しになってしまっているのを見つけたとき,私はいくらか不快の表情をしてしまったのかもしれません.他のお客様のために用意してあったお茶菓子とキュウリのサンドイッチがほとんど平らげられてしまったことについても,二言三言申し上げたかもしれません.全て許可なく食べられてしまったので,他のお客様はお腹をすかせたままになったのです.

宿のお茶用のやかんにカブト虫が入っていたという非難はナンセンスです.もしペッティボーン氏の部屋にカブト虫がいたというのなら,彼の荷物に付いてきたものです.あの荷物はかなり古ぼけて見えました.私の提供した部屋よりずっと汚かったです.間違いありません.レアボーからタラントまでは長い旅になります.ペッティボーン氏は道中,街道宿や酒場で一度も夜を過ごしてきていないのではないでしょうか?彼らは道中で新しい同行者を連れてきたに違いありません.私の経験によりますと,道中の宿賃をケチった者は,もはや快適な宿泊を買うことができるとは思わないでほしいということです.数シリングけちることが,のちのちの仇となるのです!

結局のところ,次の朝からずっと,私のもてなしがなってないというペッティボーン氏の不平に悩まされました.彼は前の晩にお支払いいただいた金貨9枚の返却を要求しました.一週間分の宿泊料金でございました.当然私は返金を拒否しました.私は自分の仕事は過不足なく行いました.荷物持ちだけではありません.彼の予約のために三日前から他のお客様をお断りしていたのです.あの部屋は彼の宿泊のために空けておいたのです.彼は前もって予約を入れていたのですから!いずれにしましても,彼のお金は彼が部屋につれてきた厄介者をとりのぞくのにほとんど消えてしまいました.商売的には損失だったのです.最終的に,敷布を洗濯し,虫たちを駆除して銀貨数枚が残りました.でも,より清潔で思いやりのあるお客様に部屋を貸して金貨数枚を得ることもできたはずなのです.

編集者様,要するに,私がタラントの宿泊業者の皆様の注意を喚起いたしたいことは,「田舎者」に部屋を貸すときは気をつけろ,ということです.ハーフリングに玄関を開けてやると後悔しますよ!あの背丈の足りない人々は,ずうずうしくて無礼です.そしてあなたのもてなしと人としての寛容度をののしった後,ものごとを悪く取る傾向にあるようです.

敬具

イリヤーナ・グレイマーク ヒアフォード通り


 

投稿 タラントの若者大博覧会

紳士の皆様方,あなたがたは産業のもたらした「大博覧会」を開催していらっしゃいますな.つまり,ハイド公園は,タラントのごろつきの若い衆の所有地になっておることを言っておるのです.公園は完全に彼らのもので,彼らは傍若無人にふるまい,それをとがめる者もありません.とくに日曜日,あのやくざものらは通行人に石を投げたり,けんかをふっかけたりして楽しんでおります.彼らの中ではそれが最高の気晴らしになっておるのですな.農神祭の間,公園管理人や警察官は配置されません.実際のところ,彼らの慣行が完璧に遂行できるように,彼らは系統的に道をあけておいているようで.そんなわけで「博覧会」の開催にあたって,タラントのごろつきの卓越性は,全世界にあまねく示されるというわけでございますな.なんと素晴らしい自由権の見本なのでしょう,あのこじき,やくざ,ならず者たちは!わたしは全ての来場者が,感銘を受けるものと確信しております.